オーダーメイド医療は「既製服」

遺伝子研究を売り込むがあまり、デーラーメイド医療やオーダーメイド医療というような個人仕様の医療を強調し、従来の医療を「平均化」という言葉を用いて批判する医師や医学研究者がいる。

オーダーメイド医療が科学的根拠に基づいた医療として認知されることを狙っている以上は、統計学的な差がエビデンスであり、それはさまざまなグループに分けたときの一つのグループのある種の平均であり、その平均値で判断して個々の患者さんに当てはめているのである。科学的である以上、それはどこまで行ってもサイズ分けを細かくした「既製服」なのである。(『医学的根拠とは何か』津田敏秀)

医学的根拠とは何か (岩波新書)

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津田 敏秀
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がんペプチドワクチンも白血球の型(HLA)によって効果が期待できる患者が限定されるので、オーダーメイド医療です。そしてそれらの患者を集めて臨床試験を行った結果が、二つの試験とも有意差がなかったという残念な結果に終わっています。

大腸がんに使うアービタックスという抗がん剤は、K-RAS遺伝子の有無で効くかどうかが決まるので、この検査なしに使うことは今では考えられなくなっています。このように同じ○○がんといっても患者ごとに遺伝子の変異は異なるわけで(近藤氏などはこれを無視しているが)、今後はますます遺伝子検査で治療方針を決める方向に向かうのでしょう。しかし、その場合でも、同じ遺伝子を持っている患者群で、統計的な差異が認められた始めて科学的根拠が得られるという点では、EBMの根幹は代わらないわけです。

ロハスメディカル『あなたにオーダーメイド医療を』にはより詳しく紹介されています。

だたし、オーダーメイド医療が生物の複雑さに対処できるのかというと、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載されるた研究報告では次のように指摘しています。

研究者らは、腫瘍の遺伝子構造は同じサンプルでもいくつもある場合もあることを明らかにした。がんのオーダーメード医療での課題を示す研究成果だ。

この研究は、患者の腫瘍の単一のサンプルだけの分析―現在のやり方だが―では、病気の経過に影響する重要な遺伝子の変異を見逃す可能性があることを明らかにした。これは翻って言えば、腫瘍に影響する変異をターゲットとする薬を見つけるというオーダーメード医療の研究を妨げる可能性があるということだ。

研究者らは、こうした腫瘍の遺伝的な研究が、がん治療を変えられるという期待をしぼませるものではない、と指摘しているが、オーダーメード医療がこれまで以上に複雑になり、費用もかかるものになる可能性はある。

NEJMのダン・ロンゴ氏は論文に付随した論説の中で、論文で指摘された腫瘍の多様な遺伝子構造はオーダーメード医療推進論者の間に見られる「過度の楽観論」と対照的であると示唆した。また、遺伝子の特徴を基準にして腫瘍と治療を組み合わせることが一部で言われているほど単純ではないことを意味していると指摘した。

1000人の患者を対象とした一般的な臨床試験から、遺伝子別に100人を選んで統計的な処理をする。しかし更に単一のサンプルでだめだとしたら、複数の遺伝子が合致する10人を選んで・・・・、となると分母が小さすぎて統計的な処理などできませんから、科学的根拠など得られるはずもありません。

オーダーメイド医療、テーラーメイド医療は、現在大きな期待をもって言われているほど楽観的ではないと思います。遺伝子検査が孕む大きな問題だと言えるでしょう。


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