患者申出療養の問題点

週刊新潮の膵臓がんに関する「特集 健康診断では見落とす『超早期がん』発見の特別検査ガイド」で、東京ミッドタウンクリニックの森山紀之・健診センター長が次のように述べている。

膵臓がんを見つけるにはPETが最適だが、「初期のすい臓がんについては、ブドウ糖を必要としないケースもあり、がんが100%見つかるとは言い難い」

そこで関連施設であるグランド・ハイメディックにはPET-MRIという最新設備があり、それを薦めている。しかし検査を受けるには、「受けたい方は、会員になっていただく必要があります。入会金は243万円、年会費は54万円」(同広報)です。

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もちろん健康保険は使えません。お金持ちだけが利用できます。

「患者申出療養」制度の問題点を整理しておきます。

  1. 上の例のように、お金のあるなしで医療に対するアクセスが差別されることになります。病院側の言い値で商売ができるようになるので、裕福な人だけが高度な治療にアクセスできるという構図が一般的になる。
  2. えせ医療が横行する危険をはらんでいること。未承認の怪しげな薬による治療が蔓延する恐れがあります。
  3. 医療保険本体が悪用される。例えば,美容整形手術が目的なのに、保険病名をつけて入院させるというようなことが起こると、保険診療の財源が無駄に使われてしまうことになります。
  4. 自由に値段がつけられる自由診療と保険診療との二本立ての制度になれば、承認を得るために高いコストをかけて臨床試験を行うよりも、製薬会社が存在しなくなり、保険医療が空洞化する。
  5. 規制改革会議の提言では、その目的を「(1)治療に対する患者の主体的な選択権と医師の裁量権を尊重」とあるが、患者と医師とでは医療に関する情報格差は大きい。まして先進医療となるとなおさらである。結局医療側の言葉に誘導されて、高額な医療負担を強いられる可能性がある。医療事故が起きても「自己責任ですよ」で補償は受けられない。「選択の可能性が広がる」と「自己責任」は表裏一体なのです。
  6. 万が一医療事故・薬害が発生したときの第三者機関による報告と集積、情報の公開の制度が必要であるが、これが担保されていない。
  7. 過去には医師が自由に投薬できることによって、多くの難病患者の命と健康が奪われたことを忘れてはならない。(サリドマイド、スモン、薬害エイズなどなど)
  8. 未承認薬の情報は、一部の専門家に握られており、彼らの見解に誘導されやすい。また、一部の専門家と製薬企業が「夢の新薬」として宣伝してきた薬が、後になって効果が疑問だったり、重篤な副作用があることが分かったという例はたくさんある。患者が主体的に選択するために必要な情報が提供されるか疑問である。
  9. 患者が未承認の薬や医療機器の使用を望めば、15箇所の臨床研究中核病院が申請し、「前例のない治療」は原則6週間で、前例のある治療は2週間で判断することになっているが、中核病院と連携する地域の診療所でも実施できるとしている。これでは国内で実績のない治療法が、臨床研究中核病院をフィルターにして、市中病院や診療所にも広がっていきかねない。
  10. これは保険会社にとっては大きな魅力である。現在の「先進医療特約」は限られた医療施設でしか使えないが、今後は町の診療所でも「患者申出療養」が実施できるとなれば、大々的に宣伝されるだろう。日本人の国民性からして、たくさんの加入が見込まれるから保険会社としては千載一遇のチャンス到来である。
  11. 2例目からは個別症例ごとの必要性は審査されない。したがって、
  12. 3.とも関連するが、必要性の乏しい患者に、安易に未承認薬が投与される恐れがある。この制度は本来倫理的観点からの例外的措置であるはずだから、重篤で命にかかわり、他の治療手段がなく、臨床試験に参加できない場合に限るべきである。しかし、この法案にはそうした限定要件を定めていない。
  13. 安全性・有効性の審査が可能とは言いがたい。1例目については6週間、2例目以降は2週間で審査すると言うが、命にかかわることが、早ければ良いってものではないだろう。このような短期間で安全性と有効性が十分に審査できるとはいいがたい。審査方法は「合議」とされ、持ち回りでも良いというのだからなおさらである。
  14. 現行の先進医療においていも、これまで109件が実施されたが、保険に収載されたのは8件に過ぎない。日本医師会の横倉会長は「有効性・安全性を評価した上で、将来的に保険収載を目指すことが盛り込まれている。これらの点から、最低限の担保がなされた」と判断して、今回の法改正を認めたと報じられているが、まったくその保証はない。
  15. 製薬企業と医師とが、多くの新薬の治験・臨床研究においてデータの捏造などの不正を繰り返している現状で、エビデンスの質が確保できるのか疑問である。臨床研究中核病院にディオバン事件の舞台となった複数の病院が含まれていることは、この疑問を更に押し上げる。
  16. このようにしていくら症例を集めても、症例研究の域をでず、臨床研究を経て保険承認につながるはずがない。その方策も明記されていない。この制度ができたことによって、逆に保険承認になる薬が減る恐れがある。

良いこことは一つもない。社会保険と民間保険の境界域が曖昧化し、相互補完、相互乗入れが行われる。現に、住友生命、チューリッヒ生命、オリックス生命など昨年6月以降、キャッシュレスを謳い文句に保険金を医療機関に支払う「直接支払いサービス」に乗り出しており、厚労省保険局は保険会社からの出向者を受け入れている。

小泉政権時代に規制改革・民間開放推進会議議長を務めたオリックスグループの宮内義彦会長は、週刊東洋経済でのインタビューで、公的医療保険の総枠を縮小し、自由診療部門を拡大すべきだして、「金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」と述べた。それがいやならば「特約」のついたオリックス生命の保険に加入しなさいということだ。いや、まもなくそうなる。

混合診療解禁の問題は、是か非かではなく、必要な治療法が迅速に保険収載(承認)されていないことが問題の本質なのである。

ところで、PET-MRIなど使わなくても、PETとMRIを別々にやれば健康保険で賄えると思うのだが、素人考えだろうか? PET-MRIの利点は何だろう?


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