がんで死なないための食事
がんを宣告された患者は、混乱した頭で、自分にも何かできることはないのかと、主治医の先生に質問します。「先生、食事で気をつけることはありませんか?」と。しかし先生は、「何を食べても良いですよ。食事でがんが治ることはありませんから」と当然のように返答します。
しかし、食事は、がん患者が自分自身でコントロールできることの一つです。
ファイトケミカルであれ、特定の食品であれ、がんを治す食物はありません。大きくなった腫瘍を、みるみるうちに消してくれる魔法の食物などあるはずがないのです。
ゲルソン療法、済陽式、星野式のニンジンジュース、トマトジュースに〇〇食事療法で、がんが治るはずはないです。
一方で、がんの治療に食事は大切です。がんを育てない体内環境をつくり、治療に耐えられる体力を維持するためには、きちんとした食生活を続けることが大切です。
がん生存者における食事の質と死亡率の関係
がん患者は、どんなものを食べれば良いのでしょうか。
JNCI CANCER SPECTRUM誌の最新号に、『がん生存者における食事の質と、全死亡率およびがんによる死亡率との関係、NHANES III』との論文が発表されています。安西英雄氏がTwitterで紹介しています。安西さん、いつもタイムリーな情報ありがとうございます。
食事とがん患者の延命効果:「良い食事」をしたがん患者は、理由を問わない全死亡リスクも、がんによる死亡リスクも、(そうでなかったがん患者より)有意に低い。1191人のがん患者を17年追跡した米国のデータ。 https://t.co/dqFI5i25aT
— 安西英雄 (@deoanzai) 2018年7月5日
米国の第3回国民健康栄養調査(NHANES III)から、がんと診断された1191名の参加者が登録されました。17年あまりの追跡期間で607名ががんによって亡くなっています。
100段階の健康栄養指数(HEI:Healthy Eating Index)スコアを利用した。 HEIスコアが高いほど、2016年1月7日に公表された「米国人のための食生活指針(2015-2020 Dietary Guidelines for Americans)」による食事療法の推奨事項が良好であることが示された。
細かな点は省略するけど、グラフを見れば一目瞭然です。
質の良い食生活をしているがん患者は、そうではないがん患者に比べて死亡率が半分になるという結果です。
これは驚きですよ。
質の良い食事とは
野菜果物と食物繊維を多く摂り、乳製品は低脂肪のもの、牛乳よりは豆乳、タンパク質は赤身の肉を控えめにして、魚介類を、脂の少ない肉や鶏肉、卵、豆、ナッツからしっかりとる。塩分は控えめにして油はオリーブ油。糖質は控えめにして、摂るのであれば玄米などの全粒穀物にする。
地中海料理が代表的なものです。
世界がん研究基金と米国がん研究機関のがん予防指針(2007年)が、より具体的に数値を上げたガイドラインを作成しています。
- やせ(BMI18.5未満)にならない範囲で、できるだけ体重を減らす。
- 毎日30分以上の運動をする(早歩きのような中等度の運動)。
- 高カロリーの食品を控え目にし、糖分を加えた飲料を避ける(ファストフードやソフトドリンクなど)。
- いろいろな野菜、果物、全粒穀類、豆類を食べる(野菜と果物は1日400g以上)。
- 肉類(牛・豚・羊等。鶏肉は除く)を控え目にし、加工肉(ハム・ベーコン・ソーセージ等)を避ける(肉類は週500g未満)。
- アルコール飲料を飲むなら、男性は1日2ドリンク、女性は1ドリンクまでにする(1ドリンクはアルコール10~15gに相当)。
- 塩分の多い食品を控え目にする。
- がん予防の目的でサプリメントを使わない。
- 生後6か月までは母乳のみで育てるようにする(母親の乳がん予防と小児の肥満予防)。
- 治療後のがん体験者は、がん予防のための上記の推奨にならう。
肉類は週500gまでとされていますが、米国の基準ですから、日本人はこれほど食べていません。したがって、肉類についての制限は考える必要はないでしょう。
「米国人のための食生活指針(2015-2020」
この論文が言及している「米国人のための食生活指針(2015-2020」の主な推奨事項は、
となっています。
糖類の摂取量については、飽和脂肪酸を含む脂肪と同様、1日当たりの摂取カロリーの10%未満にとどめることが望ましいとされました。
米国で、以前はFoods Guide Pyramidが有名でしたが、現在は「MyPlate」が普及しています。バランスの良い良質な食事を取るためにわかりやすくなっています。
「米国人のための食生活指針(2015-2020」に関しては、食肉業界や酪農家の反対もあって、赤肉の摂取制限が据え置かれたとの批判もあるようです。(どこも政治的圧力に弱い)
がんになった、さあ食事療法だということで本屋に行けば、済陽高穂や星野仁彦の食事療法に関する本が並んでいます。ついつい手にとってゲルソン療法の亜流を実行するがん患者が多いですが、効果はないばかりか、返って寿命を縮めることになります。
結局はバランスの良い食生活が、がん患者の死亡率を下げるという、このブログでずっと書いてきたことが科学的に証明されたわけです。
食事療法ではがんは治らない。しかし、食事療法をしなければがんは治らない。
食事療法が気になったら、こちらの書籍がお薦めです。