加島祥造のタオ-老子 がんになったらこれまでの欲がつまらなくなった

33bd2本棚を大掃除して、この50年間に貯めこんだ蔵書をたくさん捨てた。老年になって物質欲にこだわるのは見苦しいと考えたからだ。まず蔵書を整理しようとしたのはそのためだ。

残ったのは結局古典といわれる書物だった。その中に中野孝次や加島祥造のものが何冊かあった。

2004年に中野孝次が亡くなったとき、写真サークルの会報にこのような文章を書いた。


7 月16 日、79歳で中野孝次が亡くなった。彼の『清貧の思想 (文春文庫)』はこの種の本としては久々の人気で、私も影響を受けた一人である。現在の日本の「経済万能」「金・効率が第一」の風潮を痛烈に批判し、良寛、鴨長明などの「いのちの充実」を大切にする生き方こそが、日本人の本来のありようと捕らえて、「お前は本当に生きているといえるのか?」と頭を殴られた気がしたものだ。

このごろは休みのたびに雨模様であったり台風が来たりなので、彼の著作を読み返すにはうってつけだった。『ブリューゲルへの旅 (文春文庫)』『風の良寛 (文春文庫)』『足るを知る  自足して生きる喜び (朝日文庫)』『「閑」のある生き方』と読み進めるうちに“加島祥造”という名に行き当たった。

中野孝次の碁仇で、英文学者・詩人の加島には『トム・ソーヤの冒険』などの翻訳があり、こちらが有名だが、近年は「老子」の現代詩訳を出版している。

加島祥造の『伊那谷の老子 (朝日文庫)』には、彼がいかにして老子の現代詩約をすることになったかが紹介されている。

その中で、晩年の寺田寅彦の「電車で老子に会った話」の小文を引用して、寅彦が日本橋の丸善で老子のドイツ語訳を買い求め、電車の中で読み始めたが、これまで難解だと思っていた老子が、「まるで背広にオーバー姿で電車の中でひょつくり隣合って独逸語で話しかけられたよう」に、すとんと理解できたというのである。

そして加島自身も、老子の英語訳に出会っていっぺんでその虜となり、触発されて老子道徳経を現代詩に訳した『タオ―老子 (ちくま文庫)』を出版することになってしまった。

この『タオ-老子』の現代詩がなんともいいのである。

私なんぞは、漢詩は高校で受験のために仕方なく勉強したが、正直いって難解で退屈だった。孔子・孟子までは付き合ったが内容はほとんど記憶にないし、まして老子となると義理で付き合った覚えもない。

その老子が、加島の現代詩に姿を変えると、本当にストンと胸に落ちるから痛快だ。

無為とは、なにもしないことじゃない
誰も、みんな、
産んだり、養ったり、作ったりするさ、
しかし、
タオにつながる人は
それを自分のものだと主張しない。
熱心に働いても
その結果を自分のしたことと自慢しない。
頭に立って人々をリードしても、
けっして人を支配しようとはしない。
頭であれこれ作為しないこと、
タオに生かされているのだと知ること、
それが無為ということだよ。
なぜって、こういうタオの働きに任せたときこそ、
ライフ・エナジーがいちばん良く流れるんだ。
これがタオという道の不思議な神秘の
パワーなんだ。
(老子道徳経第十章)

君はとっちが大切かね?-
地位や評判かね
それとも自分の身体かね?
収入や財産を守るためには
自分の身体をこわしてもかまわないかね?
何をとるのが得で
何を失うのが損か、本当に
よく考えたことがあるかね。
名声やお金にこだわりすぎたら
もっとずっと大切なものを失う。
物を無理して蓄めこんだりしたら、
とても大きなものを亡くすんだよ。
なにを失い、なにを亡くすかだって?
静けさと平和さ。
このふたつを得るには、
いま自分の持つものに満足することさ。
人になにかを求めないで、これで
まあ充分だと思う人は
ゆったり世の中を眺めて、
自分の人生を
長く保ってゆけるのさ。
(老子道徳経第四四章)


これを書いたのは、まだ膵臓がんを告知される前である。今から思い返してみると、中野孝次や加島祥造、老子に接してきたおかげで、膵臓がんと言われたときにも、思ったほどには慌てず、冷静に受け止めることができたような気がする。

地位や名誉、財産や余計な物欲はなくて良い。がんになったときにすぐにそう思ったのも彼らのおかげであろう。

清貧の思想 (文春文庫)
中野 孝次

清貧の思想 (文春文庫)
足るを知る 自足して生きる喜び (朝日文庫) 「閑」のある生き方 (新潮文庫) ハラスのいた日々 (文春文庫) 生き方の美学 (文春新書) 風の良寛 (文春文庫)
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タオ―老子 (ちくま文庫) タオ―老子 (ちくま文庫)
加島 祥造
伊那谷の老子 (朝日文庫) 老子までの道―六十歳からの自己発見 (朝日文庫) タオ―ヒア・ナウ タオにつながる 老子と暮らす 知恵の森文庫
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