どろ亀さん

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【日 時】2018年12月23日(天皇誕生日) 13:10~16:30(開場・受付:12:50ごろ)
【場 所】JR京浜東北根岸線 大森駅東口から徒歩4分 Luz大森 4階 入新井集会室
【参加資格】膵臓がん患者とその家族、遺族
【参 加 費】500円(会場使用料及び資料代)
【定 員】 130名
【内 容】
●講演「私が手術、抗がん剤をやめたわけ」:待夢さん、SAKUさん
●患者さんどうしの情報交換会
●二次会(希望者だけ)

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樹海―夢、森に降りつむ

まさか自分が膵臓がんになろうとは思いもしなかった4年前の夏、夫婦で北海道をドライブした。「北の国 此処に始る 倉本聡」と記念碑がある布部駅から、布部川沿いにドラマの主な舞台である富良野市麓郷地区に向かってレンタカーを走らせると、カーナビに「東京大学北海道演習林」と表示が見えてくる。

『へぇ、こんな所にも東大の土地があるんだ』と思いつつ、そういえば6年前に京都・美山町の「かやぶきの里」に行ったときにも「京都大学演習林」があり、ブナ林が見えたことを思い出した。旧帝大はいろんな所に土地を持っているんだなぁ、とその程度の認識しかそのときは想い浮かばなかった。_mg_5444_thumb

最も古いロケ地である「麓郷の森」からほんの少し行くと、ここにも「東京大学演習林」の看板が掛かっていた。

その後に調べて分かったのだが、麓郷展望台から撮影したこの写真にも広大な森が見えるが、実は麓郷地区というよりは、富良野市が三方を「東京大学北海道演習林」に囲まれているのだ。

その演習林の林長を長らく務めた「どろ亀さん」の話

高橋延清さんは自分のことを「どろ亀さん」と呼ぶ。赤い登山帽が似合う東京大学名誉教授であった。ところがこのどろ亀さん、ドクター論文も書いたこ
とはないし、そもそも論文なんて大嫌い。教授会にも一度も出席せず、「生きた教材がないキャンパスなんて意味がない」と、本郷の教壇に立ったこともないと
いう、なんとも不思議な東大名誉教授である。

どろ亀さんが生涯をそこで過ごした樹海(東京大学北海道演習林)は、2万3千ヘクタール、東京山手線区域内の3.5倍の広さを持つ広大な演習林だ。どろ亀さんは1938年に着任して、退官後も死ぬまでそこで過ごした。

  どろ亀さん
  どろ亀さん
  どこへ行く
  クマザサこいで
  峰こえて
  還暦すぎて
  どこへ行く
  トドマツさんが呼んでいる
  キネズミ君が待っている
  樹海の中に生きていく
  樹海の中で生きていく

戦後日本の林業は皆伐林業だった。林野庁と営林署は、山の木を根こそぎ切り倒し丸裸にしたあとに、金になる杉や檜だけを植林し、国有林の大伐採と自
然破壊の元凶となった。手入れを怠った針葉樹林は材木としての値打ちもなく、各地で水害やスギ花粉症の原因となっただけであり、今日では林野庁の誤りは明
らかなんだが、その当時どろ亀さんは、この林野庁の方針に真っ向から反対し、あらゆる樹木を混成させてバランスをとる『林分施業法』に基づいて演習林を育
てる実験に取り掛かったのである。

林分施業法は、森林生態系の法則に従い、環境保全機能と木材生産機能との両立を持続させることを目的としている。専門外の私には難しすぎるが、「百
年単位で、森の生態系と最小単位である林分の行く末を見極めつつ、森の中の伐るべき木を選定する」ことだろう。それぞれの林分が極相林に早く達するのを手
助けするのである。極相林とは、森の中で枯れていく木と成長していく木の比重が同じ状態をいい、その直前が木材の生産量も多く、活力のある状態だという。

こうして林分施業法の6原則によって、極相林一歩手前の状態の森林がもっとも木材の生産性の高い森林であり、森にすむ生物も一番豊富なんだと証明したんだ。

そうして、木との対話、森のいのちとの対話がどろ亀さんの生き方となった。

どろ亀さんはこの「林分施業法」によって「学士院エジンバラ公賞」を受けるんだが、「百年たてば必ず分かってもらえる。ただ、生きてるうちは無理だから、森の根っこになって朽ちようと思っていたのに・・・」と新聞社へのインタビューで述べている。

  老いて
  二度童子(わらし)になった
  どろ亀さん
  科学者の目を落として
  森の中へ
  見える 見える
  よく見えてくる
  今まで気がつかなかった
  森の中の小さな
  美しいデザインも・・・・・・

  動かずに
  黙って座っている、と
  生きものたちが
  心を開けてやってくる
  ともだちにならんか、と。

老子が言うように、人間はとかく爪先立って背伸びをしたり、先を急いで大股で歩こうとしたりするが、どろ亀さんの心はそんな生き方とは正反対の命のありようだ。

どろ亀さんの育てた演習林は樹木の種類も豊富で、しかも木材生産性も日本一という、自然保護と材の生産性を両立させた森になっており、世界中から林業の研究者たちが見学にやってくる。

金を儲けようとか、有名になろうとか、新説をたてて学会をあっといわせようとか、そんな欲望をすっぱりと捨てて、意識も分別もなくして己を無にして
空っぽになったとき、向こうから自然がやってきて己と一体になる。こうして人間は命の根底に至るのである。どろ亀さんはこうして生きた人だった。

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どろ亀さんの詩文集『樹海 -夢、森に降りつむ』には、すばらしい富良野の森の写真が添えられている。水越武さんの写真もまた「森を知り、森のいのちを知り尽くした」写真家の、命の根底にいたった作品である。

本当の人生の幸せは、どろ亀さんのような生き方にあるのだと、癌をもったいまでは痛切に感じます。

【参考文献】

樹海 -夢、森に降りつむ-  世界文化社
森に遊ぶ  -どろ亀さんの世界-  朝日文庫
樹海に生きて  -どろ亀さんと森の仲間たち- 朝日新聞社

樹海―夢、森に降りつむ森に遊ぶ―どろ亀さんの世界 (朝日文庫)

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