『生物と無生物のあいだ』福岡伸一

Web交流会のご案内


【日 時】2020年12月12日(土) 13:00~16:00(開場:12:45)
【場 所】Zoomを使ったオンラインの集まりです
【対 象】膵臓がん患者とその家族、遺族
【参加費】500円 (PayPal決済、郵便振替)
【定 員】100名
【内 容】
第一部 がん研有明病院 腫瘍精神科部長 清水研先生の講演
『もしも一年後、この世にいないとしたら ~4000人の患者家族と対話した精神科医の学び~』
第二部 患者さん同士の交流会

ウェブ会議ツール「Zoom」を使ったWeb交流会となります。
スマホだけで簡単に参加することができます。

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生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

新書大賞とサントリー学芸賞を同時受賞した、福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』。
本当に文章のうまい人です。化学者というよりは文学者と言ったほうが良いほどです。

前半は、野口英世の日米の評価が二分している話題。日本では偉人扱いの野口英世ですが、数々の病原菌を見つけたという彼の業績は価値のないものだという。ウィルスの見えるはずのない彼の時代の顕微鏡(電子顕微鏡はまだ無かった)を使った実験は、欧米ではほとんど価値のないものとして忘れ去られている。ワトソンとクリックの、遺伝情報を担うDNAの二重ラセン構造の発見にまつわる歴史とエピソードが続くが、なぜこの記述が必要なのかよく理解できない。確かにDNAの二重ラセン構造は、後で出てくる「相補性」を連想させるように思えるが、私には福岡氏自身のアメリカでの輝かしい活躍ぶりを紹介したいだけのように思える。

この本の主題は「生命の動的平衡」という考え方だ。著者が『もう牛を食べても安心か』の中で提起したこの概念を再び拡大して提起している。だから、まったく目新しいことを書いているわけではない。シェーンハイマーの実験を引き合いに、生物を構成している器官は、分子レベルでは常に入れ替わっている。アミノ酸もタンパク質も、その一部の分子が入れ替わるのではなく、一から再構成されて元の位置に納まり直すのだという。人間の場合なら数日から数週間で人体を構成しているタンパク質は分子レベルで、神経も脳細胞も含めて、すべて入れ替わっているという事実を述べた上で、「それではどういう仕組みで生物というシステムの安定性が確保されているのか」と問う。

核心になるのはタンパク質の「相補性」である。タンパク質をジグソーパズルに例えると、ジグソーパズルの一片はその特異な形状の故に、収まるべき箇所は全体の中でただ一カ所だけである。その形状は、周囲のパズル片の形状によって決められている。空いた場所にはその形のパズル片しか収まることができない。タンパク質もまた、それを構成するアミノ酸の数と種類、並び方の順序などにより、アミノ酸の電気的性質、水溶性などの性質により三次元的形状が決まってくる。三次元的形状が決まれば、パズルと同様に、収まるべき箇所は一カ所しかない。これが「相補性」という概念である。これによって一から作り直されたタンパク質が、間違いなく元の場所に収まることが可能になるのである。

熱運動をしている物体(人体もそうである)は、エントロピー増大の法則に従って、最終的には熱平衡状態、つまりはエネルギー的に移動もない安定な状態に落ち着かざるを得ない。これは「死」ということである。人間がエントロピー増大の法則に逆らって100歳まで生きることができるのは、外界から食物を摂り、排泄するという行為によって、分子レベルでのタンパク質、細胞の再構成を行うことにより、エントロピーの増大に抵抗しているからである。つまり生命は「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と、秩序ある減少を新たに生み出す能力を持っている」ということになる。

生命とは動的平衡にある流れである。生命を構成するタンパク質は作られる際から壊される。それは生命がその秩序を維持するための唯一の方法であった。しかし、なぜ生命は絶え間なく壊され続けながらも、元の平衡を維持することができるのだろうか。その答えはタンパク質のかたちが体現している相補性にある。生命は、その内部に張り巡らされたかたちの相補性によって支えられており、その相補性によって、絶え間のない流れの中で動的な平衡状態を保ち得ているのである。

であるとするならば、我々の「意識」とはどこに存在するのだろうか。生命において「自己」と「非自己」はどのような仕組みで識別されるのだろうか。前の問いは、ヒトとは何か、生きているとは何かという哲学的問いに発展するだろうし、後の問いは免疫とは何か、どのようにしてウィルスなどの「非自己」を識別して攻撃することが可能になるのか、「自己」から異常に分裂し始めた癌細胞を「非自己」として識別する仕組みは何か、という問いに発展するだろう。

免疫の意味論

多田富雄は「免疫の意味論」において生命はスーパーシステム、要素そのものまで創り出しながら自己組織化していくシステム、であるという考えを提起している。このようにダイナミックな動的なスーパーシステムとしての生命であるが、しかし人間においては、もう一つ大事な要素がある。それは「精神性」あるいは「心」という要素である。この要素が、タンパク質あるいは細胞レベルでのシステムに大きな影響を与えることができるということが、精神神経免疫学の結論であり、私の考えでは、プラシーボ効果もこうした働きの結果である。「自己治癒力」「自然治癒力」ということも、この動的平衡状態を維持しようとする生命の特徴を別の側面から言ったものであり、私たちの身体に「本来備わっている力」であるということだ。

Dr.ワイルは治癒系が適切に働くためには、「身体性」「精神性「霊性」が重要だという。彼のいう「霊性」は物理的現象以外のことであり、まだ我々人類には未解明であるが明らかにその仕組みあるいは存在が治癒系に影響を与えるのだと考えている。免疫に関しては私たちはまだそのほんの一部しか分かっていない。生命と免疫に関しての知識がもっと確実なものになったとき、「霊性」といわれてきたものの物理的現象の本質と、生命の動的平衡との密接な関連も明らかになるのだろうと思う。そのときが、癌細胞を自己の免疫力で完全緩解させる確実な方法を我々が手に入れる時代となる。


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