『エンデの島』

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Dpp_0056権現堂堤の桜(7)


「・・・・がんばるのは美徳ではないと?」
「いちがいには否定しませんよ。でも、戦争のときも経済発展のときも、国民はがんばるのがいいことだと信じていたのです。そして一枚岩になって団結し、異分子を排除した。でも一枚岩は脆いものです。多くの人は、こんなことをやっていては駄目だ、戦争はもう負けだ、バブルはいずれ崩壊するとわかっていたと思いますよ。でも、だからといって方針転換はできず、がんばりつづけた。決定的に破滅するまで・・・・。もし、がんばることを放棄していたならば、東京大空襲や沖縄や広島や長崎の悲劇は避けられた。あやまちは繰り返しませんというが、そのあやまちとは戦争をしたことだけではなく、がんばりつづけたことなのです。」

エンデの島 (光文社文庫)これは高任和夫の小説『エンデの島』の一節である。「エンデ」とはもちろんミヒャエル・エンデ、『モモ』や『はてしない物語』の作者である。小説では伊豆諸島の架空の島「奥ノ霧島」を舞台に、エンデが描いた理想郷とその活動を支えている人物たちが描かれている。

「パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は、まったく異なった種類のお金である」。NHKで放送されたドキュメンタリー「エンデの遺言–根源からお金を問う」のなかのエンデの言葉である。エンデは、問題の根源はお金にある、なかんずく利子というものが経済を間違った方向に誘導し、私たちの生活を苦しめていると考えていた。そこで例の「キリストが生まれたとき、1オンスを5%の複利で銀行に預けると・・・2000年には・・・太陽4個分の重さの金塊」が得られるという話しに繋がってくる。<こちらにリンク

エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」『モモ』のなかには「時間貯蓄銀行」の灰色の男たちた登場するが、エンデは時間のことではなく、お金のことを示唆しているのだ。灰色の男たちは、人々から時間を奪おうとする時間泥棒で、「時間を節約して銀行に預ければ、利子が利子を生んで、人生の何十倍もの時間を持てるようになる」と言う。彼らの誘惑にのせられた人々は、余裕のない生活に追い立てられて人生の意味までも失ってしまう。仕事はぜんぜん楽しくないばかりか、成果・効率で、過労死や年間3万人以上もの自殺者が十数年間連続している。昔からの祭りは廃止、商店街は郊外の大規模店に押しつぶされてシャッター通りに、人々はいつもくたびれて怒りっぽい顔。とげとげしい目つきで、わずかな余暇をムダなくと、せわしなく遊ぶようになる・・・・。私たちには、思い当たることばかりではないか。

人類は細菌に対しては抗生物質などを開発し、感染症との闘いにおいてはほとんど勝利したに違いないが、現在はむしろストレスを原因とする心身症が病気の大部分を占めており、我々団塊の世代が老年になり、さらに医療費が増大することは自然の成り行きだ。

利子や株による配当が経済を混乱に陥れている。まさに『しっぽが頭を振り回す』ような今の経済危機は起こるべくして起きたのであり、我々はエンデの警鐘を無視したツケを払わせられようとしている。お金の節約、時間の節約は将来のためになるのだと私たちは信じ込まされてきたが、ほんとうはお金と時間の消費の仕方も、節約の仕方もまちがっていたのではないか。

私たち人類のからだをコントロールしているソフトウェアは石器時代のままである。つまり、セリエが『現代社会とストレス』でいう「闘争か逃走か」反応だ。しかし、ストレスが生じたときのこの反応が、慢性的に長期間にわたって続いているのが私たちの社会である。そこでさまざまな心身症が起きる。癌の発生も、原因はいろいろだが、ストレスがその引き金になっていることはまちがいないと言われている。エンデが指摘した逆立ちした経済社会が、自殺者のみならず、癌患者をも増やしているにちがいない。

エンデは、貨幣の機能を交換価値の尺度と交換の媒介に限定し(つまり貨幣の保蔵機能をなくし)、新しい経済を取り戻すことを訴える。それを現実化したものが”地域通貨”であり、現に国内でもいくつの地域通過が発行されている。『奥ノ霧島』の舞台でも地域通貨オッキイを軸に島の経済と生活が回ってゆく。原則無利子の島民への貸付けである。そのお金で、高齢者が安心して生涯を終えられる医療と介護の仕組み、全国から患者が集まってくるという大きな総合病院、食べ物とエネルギー(風車と地熱発電)を島内で自給する工夫。内地の大規模店やホテルが島を支配するのを制限する条例づくりなど。冒頭に引用したのは、この総合病院の村田院長の言葉である。

『エンデの島』を読んで、井上ひさしの『吉里吉里人』を思いだしました。


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