がん難民コーディネーターとホメオパシー:似非治療に騙されない

『ガンに打ち勝つ患者学』という本をWshot200054以前に紹介したことがある。肺がんになり余命1ヶ月と告げられたグレッグ・アンダーソン氏が、末期癌にもかかわらず10年以上も生存している全米の15000人の人たちに会い、その中からガンに打ち勝つための共通点を書いた本。この本を翻訳したのが藤野邦夫氏だった。

藤野氏はこの本の翻訳を機会に、自らを「がん難民コーディネーター」と
称して、無償のボランティアとしてがん患者と医者との橋渡し役として活躍することになった。彼の活動は2009年1月22日の「報道ステーション」でも『見放された患者と共に闘う "がん難民コーディネーター"』のタイトルで放映された。

がん難民コーディネーター~かくして患者たちは生還した~ (小学館101新書)

この藤野氏は、『がん難民コーディネーター』と、最近に『ガンを恐れず-
ガン難民にならない患者学』の2冊の本を出版している。これらの著作の内容は、基本的
には『ガンに打ち勝つ患者学』の延長線上にあるものだと言えよう。がんと闘うための基本戦略として、①伝統的な西洋医学を中心にした治療を受ける ②進行したがんに対しては西洋医学では限界があるので、統合医療も求める ③大切なのは自己免疫力を高めることであり、ライフスタイルによる「非特異的免疫療法」を維持する、と紹介している。「非特異的免疫療法」は彼の造語であり、NK細胞活性化免疫療法などの従来に免疫療法に対して、ライフスタイル改善により自己免疫力を高める療法を「非特異的免疫療法」と呼んでいる。

非特異的免疫療法として

  1. 定期的な運動をする
  2. 十分な水分を摂る
  3. 毎日ぬるめの風呂に20分から30分、のんびりとつかる
  4. からだを冷やさないようにする
  5. イメージ療法をする
  6. 医師の予想や検査データに一喜一憂しない
  7. どんな時間帯でも寝るようにする
  8. 食事を大切にする
  9. 強い抗がん効果がある加熱した野菜を摂る
  10. フルーツ・シード類・ナッツ類を摂る

を述べている。これらの彼の独創といったものではなく、いろいろな人がこれまで書いてきたことを彼なりにまとめたというだけのものである。藤野氏もそう書いている。当然だが、私が手術後に実行してきたがん攻略戦略とも多くの点で合致しているし、書かれていることの一つ一つは概ね合点がいく内容だ。(中には首をひねるようなものもあるが)

しかし、見逃せない点がある。それはホメオパシー療法を勧めている点だ。2点の著作にはホメオパシー療法をはっきりと勧めて書かれているわけではない。『がん難民コーディネーター』に帯津良一氏との対談で、帯津良一氏がホメオパシーで自分の患者を治療したということが述べられているだけである。

ホメオパシー療法は、すでにランセット論文などでもプラシーボ効果程度の効果しかないことがはっきりと示されて、決着済みの問題である。ようするに似非治療の最たるものがホメオパシー療法である。(こちらに詳細に紹介されている)2点の書籍の内容とは何の脈絡もなく、報道ステーションではホメオパシーが奇跡の治療法のようにナレーションされていた。単なる砂糖粒にすぎないレメディーを高価な治療費を取っているのは詐欺に等しいといわざるを得ない。

また、『ガンを恐れず-ガン難民にならない患者学』では、最後の「あとがき」に突然「協和のアガリクス茸仙生露」や第一酵母という会社の「コーボンマーベル」等の健康補助食品を、免疫力を上げる食品として積極的に勧めている。「これらは僕とは利害関係はありません」とは書いてあるだが、これが効果があるという根拠も、治ったという症例も一切説明抜きで、本の内容ともちぐはぐに書いてあるから驚いてしまう。

協和のアガリクス・・・は、「この製品は2003年に、NCI(アメリカ国立癌研究所)で、日本の健康食品素材として始めてガン予防剤開発研究に採択され、前臨床試験の結果、肺がん、大腸がん、乳がんに対する予防効果が認められています。」と書いてあるが、そのような事実がないことがいくつかのブログでも紹介されている。20億円の研究費が付いたということだが、

アガリクス茸については、ある大企業が、ある大学教授と組んで、米国の国立がん研究所(NCI)から20億円も研究予算を取った、ということが、センセーショナルに健康産業関係のニュースで流れたことがあります。

 米国は、あくまで自らの国益にかなうことに対して、予算を出すのが建前ですから、米国事情にくわしい私は、ややおかしいな、と思いました。

 そこで、ワシントンDCを訪問した折に、以前より親しくしている米国国立がん研究所でがん相補・代替医療研究調査局の局長をたずねて、事実かどうか、真偽を、直接、あちらのVIPにたずねてみました。

 「20億円もの予算が出たのなら、まっさきに、そういう情報は私のところに来るはずだけど、聞いたことないな。また、米国では、アガリクス茸については、あまり関心をもたれていないのが実情だ。臨床試験に関してなら、必ずこちらに情報が入る。どうも、このプログラムは、予防に関してのものらしいが、それなら、アガリクス茸のがんについての効果についての研究にならないし。20億円もの予算が予防の研究で獲得できるとは思えないな。」

 局長は、はっきり、こういったのでした。それなら、あの日本の健康食品業界のフィーバーは、一体、なんなの?といった感じです。

私が少し調べただけでもこのような記事が出てくる。まして藤野氏は翻訳家であり、英文の検索などお手の物のはず、NCIの該当する論文なり、研究結果なりを載せて説明するべきであろう。

ハーネマンがホメオパシー療法など自身の主張をまとめた著作『オルガノン』が出版したのが1810年である。この時代の西洋医学は、病気を治す医学にはほど遠い状態であり、瀉血が唯一の治療法といってもよい状態であった。消毒という概念すらないのである。消毒の概念は、ハンガリー人の医師であるゼンメルワイスが1847年に始めて提唱している。一方我が日本では、すでに戦国時代のころには焼酎で傷口を洗うという知恵を持っていたのだ。経験知識としてアルコール消毒をしていたのである。当時の日本の方がよほど進んでいたのだ。こんな時代のヨーロッパのホメオパシーを、21世紀の日本でありがたく高い金を出している患者が哀れでもあり、滑稽でもある。

看護覚え書―看護であること・看護でないこと

ホメオパシーにはこんな逸話がある。ナイチンゲールの書いた『看護覚え書―看護であること・看護でないこと』にあるホメオパシーの薬についてだ。当時の一般大衆の医療知識について、

男性たちはよく、これら健康に関する法則を女性に教えることは賢明ではない、なぜなら彼女たちは自分勝手に薬を使うようになるからであり、そうでなくても現に見かける素人療法には目にあまるものがあるではないか―これは事実である―と主張する。ある有名な医師の話によると、医師の処方としては経験上考えられもしないほどの多量の甘汞が、急病時に、また常備薬として、母親や女家庭教師あるいは看護婦などの手で、子供たちに与えられているということである。また別の医師によれば、そのような女性が身につけている薬の知識といえば甘汞と緩下剤だけである、という。

つまり、素人判断で大量の薬を大人子供の区別もなく与えたり、ロンドンから取り寄せた薬の効用や副作用もろくに知らないのに、善意のつもりで貧しい人々に施したりする”立派なご婦人”がたくさんいたという。
(現在だって、●●が私のガンに効いたから、あなたも飲んでみたら、と勧める御仁はいますね。これを「善意の謀略」といいます。ナイチンゲールの時代並みの知識しか持ち合わせない方がたくさんいるということですが)

で、ナイチンゲールは皮肉っぽく次のように書いている。

ホメオパチー療法は素人女性の素人療法に根本的な改善をもたらした。というのは、その用薬法はまことに良く出来ており、かつその投薬には比較的害が少ないからである。その「丸薬」は、どうしても善行を施して満足したい人たちが必要とする一粒の愚行なのであろう。というわけで、どうしても他人に薬を与えたいという女性には、ホメオパチーの薬を与えさせるとよい。さしたる害とはならないであろう。

毒にも薬にもならないものだから、素人に与えても安心だというわけである。帯津良一先生や藤野邦夫氏よりもナイチンゲールの方がよほど科学的な考え方をしているということだ。

もちろん、藤野氏も活動を善意で始めたことには違いないと思う。ある強烈な経験=自分の癌が治ったという経験が、善意から、多くの人にもこのことを知らせたい、と考えることはよくあることに違いない。がんの患者学研究所の川竹氏もそうした一人だろう。しかし、善意も、組織を作って運営をしていくうちに変わってくる。善意だけでは組織と運動は維持できない。そしていつの間にか、最初の目的とはなんだか違うようになってくることもよくある話しだ。

「がん患者のあきらめない診察室」の「臨床医のひとり言」では、藤野氏に公開討論を申し込んだり、批判の文章がアップされている。こちらも一読の価値有り。

今朝の食卓にレンコンが出てきた。「テレビで新型インフルエンザに蓮根が効くといっていたわ」と妻が言う。別にそうだから出したわけではなく、我が家では朝によく出されるというだけのことだが、蓮根が八百屋で品切れ状態だったそうだ。ホメオパシーが新型インフルエンザに効くというニュースか番組かもあるらしい。私は知らないが。


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