外気功で病気は治るのか

『健康問答』で、帯津良一医師が、五木寛之との対談で次のように述べている。

イギリスでスピリチュアル・ヒーリングのセミナーに参加したとき、初日にいきなり遠隔治療を行なわされた。私は川越の病院に入院中の患者さんに「気」を送りました。この人は胃癌の手術の後腸閉塞を何回も併発したりして、衰弱しDIC(播種性血管内凝固)を起こしていました。祈るような気持ちでロンドンから川越まで「気」を送りました。後日、成田空港に迎えに来た看護師長は「○○さんね。すっかり元気になりましたよ」と言うではありませんか。翌朝患者さんの病室に行くと、「ロンドンから気を送ってくださったのはいつのことなのですか?」と聞くので、「時差を考えると水曜日の朝の4時頃かな・・・」「え、本当ですか?私がよくなってきたのは、丁度その頃からですよ」(内容はまとめています)

五木寛之が「遠隔治療での治癒例はあるのですか?」という質問に対して、帯津医師が「患者さんや家族に頼まれて遠隔気功をこれまで何回かやったことがある」と答えた後、上のような一例をあげている。

「気」というものがあるかどうかという問題に答えるのは難しい。そんなものは科学的に証明されていないというのは簡単であるが、ある事象が「存在しない」ことを証明することは、ほとんど不可能である。例えばヒマラヤの雪男やネッシーは存在するかという問いに対して、「存在しない」ということはなかなか証明できない。ネッシーの写真はでっち上げだったことが分かっているが、だからといってネッシーがいないということにはならない。まだ見つかっていないだけかもしれないし、かつては存在したが今は死に絶えてしまったという反論だって成立する。「気」や「ツボ」は解剖学的には見つけられないが、だからといってないということもできない。

もっとも「気」とはなにかという定義をはっきりさせないで「気は存在するか」と問われても答えようがない。「あなたは神の存在を信じますか」と問われても「神」とは何かをはっきりさせないでは答えようがないのと同様である。

この本には帯津氏のこうした定義のはっきりしない言葉が随所に出てくる。

  • ホメオパシーは命のレベルに働きかける
  • 気功は命の場のエネルギーを高めてくれる
  • 物質の持っている物質性を排除して、エネルギーだけを残し、一分子も入っていない状態にして、それを水に投影させるのです。

命の場?命の場のエネルギー?エネルギーを水に投影させる?なんのことやらさっぱりと理解できない。もっとも「場のエネルギー」は物理学的にはきちんと定義されている。場はある物理量が空間的に分布している様子であるから、「命」を物理量で表わせれば「命の場のエネルギー」と言えるかもしれないが。

問題は、ロンドンから川越に「気」を送ったから患者が治ったのかどうか、二つの事象には因果関係があるのかどうかということである。帯津氏にいわせれば、偶然で説明することができなくはないが、このようなことが起こる確率はきわめて小さい。だから、何かの不思議な力が存在するのではないか、ということだろう。

このように、少数の限られた観察から一般的な命題や法則を導き出す推論形式が「帰納的推論」である。帰納的推論は便利であり、私たちが生活するになくてはならないものである。もともと人の思考法は帰納的であり、子供が世界を認識していく過程も帰納的推論が頼りになるのです。しかし、帰納的推論には、ときとして大きな落とし穴にはまることがある。鳩は空を飛ぶ。鳩は鳥である。したがって鳥は空を飛ぶ。この帰納的推論が誤りであることは、ヤンバルクイナやダチョウやペンギンは空を飛ばないという事実によっ
て反論される。

したがって、遠隔治療あるいは外気功を送ったときに、患者が治らなかった例はどれくらいあるのか、ということを検証する必要がある。ま、こんなことは普通の知性の持ち主なら誰にでも分かることだ。しかし帯津医師は何度か遠隔治療をした経験があるにもかかわらず、たまたま治った一例しか挙げようとはしない。だいたい治療だとかサプリメントでがんが治ったという例は、こうした帰納的数論の誤り犯している。群馬大学医学部の丸山悠司教授らは「外気功を科学的に検証した」実験を行なっている。その結果、外気功はプラシーボ効果に過ぎないとしている。

患者が病院に行くのは、具合が悪いからである。そして具合の悪い状態は、ある平均値の上下で変動する。血圧であれ血糖値であれ、ある正常値の上下で変動している。たまたまある治療を受けた後に具合がよくなったからといって、その治療法のおかげであるとは限らない。これを「平均値への回帰」というが、あるサイクルで変動している状態があって、たまたま下降する時期にある治療法を施したら「治った」ということにされるのである。

帯津医師はいくつもの推論の誤りを犯しているようだ。しかし、この先生を非難するのは酷かもしれない。あのユングでさえも、心理治療の最中に患者と神聖甲虫の夢の話をしていたら窓に甲虫がぶつかってきたという偶然の一致を経験し、シンクロニシティ(共時性)という原理を発見したという錯誤を犯している。ユングは晩年は占星術の研究に没頭したという。

私は患者が、とくに現代医療では治癒する見込みのない患者が代替医療を取り入れることは反対しない。むしろ積極的に取り入れた方がよいと考えている。患者は治るのなら、それがプラシーボ効果であるかどうかは関係ない。治るのなら何でもよいのであり、プラシーボで治って何が悪いか、と思う。現代医療を放棄しないのならレメディーを舐めていてもよいだろう。しかし、医療の世界に一定の大きな影響力を持つ帯津医師のような方が、あまりにも非科学的な推論でその影響力を広めているといたら、これは放っておけない。現にホメオパシーや食事療法だけでがん治療をしようとし、現代医療から遠ざかっている患者が多い。手術や抗がん剤をやめるべきだという代替医療家も数多くいる。彼らは「治らなかった例」は決して明らかにしようとはしない。


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