非線形科学:蔵本由紀

非線形科学 (集英社新書 408G)

デカルトに始まる近代合理主義精神は要素還元的に、つまり分子よりは原子、原子よりも電子・中性子、これらよりもクオークやパイ中間子といったように、より根源的な物の普遍的構造を知ることによって、われらのこの世界の現象を理解できるという考えです。この考えは根深いものがあります。近代物理学はそうした思想でこの世界を研究し、理解を深めてきたのであり、今日ナノテクノロジーや量子力学の研究の成果で私たちは高度な”道具”を持つことができるようになったのは事実です。携帯電話しかり、パソコンしかりです。

しかし一方で、水の分子H2Oを探求し、水素の陽子・中性子をどれほど探求しても流れる水の性質を理解することはできません。人の顔を構成する目・鼻・口などの各部分をどんなに詳しく調べて情報得たにしても、その人固有の「顔つき」を表現することはできないのです。

このように、構成要素間の緊密な相互作用から生まれる新しい性質を「創発」という概念で説明しようとするのが「非線形科学」だと乱暴に言ってもよいでしょう。

蔵本由紀氏は、この本でこの「非線形科学」を数式を一切使わずに説明しようという新しい挑戦に臨んだものです。「カオス」「フラクタル」「複雑系」「リズム」「ゆらぎ」「同期」など、最後に「ネットワーク理論」と幅広く非線形科学の概念が身近な例を示して分かりやすく書かれています。

バンコク市の河岸に4分の1マイルにわたっておい茂るマングローブの木にびっしりと群がったホタルが、1秒に3回割合で完全に歩調を揃えて一斉に発光を繰り返すという驚くべき現象を例に、「リズム・集団同期・相転移」などを説明していきます。

フラクタルな性質を例に挙げれば、海岸線や雲、河川と毛細血管の枝分かれパターン、稲妻と壁のひび割れ、銀河団の分布構造、これらが同じフラクタル性を持っているが、これらはどのような物理的プロセスによって形成されているのか? そこにはまだ人間が知ることのない普遍的メカニズムがあるはずだということを確信させてくれます。

「非線形科学」はマクロの現象を、要素に分解しないでマクロのままとらえようとする科学です。自然はなお奥深く、人類はまだそのほんの一部しか知っていないのでしょう。


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非線形科学:蔵本由紀” に対して2件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    通りすがりの者さん。WDSに関するコメント、ありがとうございます。
    実は、このブログを引っ越した際に3.01でもできることを当日の記事に追記してあります。
    Adobe の IFilter ではなくてサードパーティのものを使うのですが。2種類ありどちらも可能でしたが、私が使っているFoxit PDF IFilterを記しています。
    しかし、ZIPファイルの中のOCRされたPDFファイルに対しては内容の検索ができないようです。
    ZIP IIfilter も入れていますが・・・。

  2. 通りすがりの者 より:

    9日の記事とは関係がないのですが、昨年11月の記事に
    Windowsデスクトップサーチ(WDS)のことがありましたが、WDSのVer3でもpdfの内容を検索できますよ。少しコツがいります。
    pdf リーダーのバージョンがver8である必要があるようです。

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