ガンの患者学研究所 (3)

川竹氏は「人間はなぜ治るのか」の番組に大幅な追加取材をして、2年後に『幸せはガンがくれた』を出版しました。しかし、この本にはK病院関係者はすっぽりと抜け落ちています。それについての説明はまったくなく、こっそりと外しています。代わりに帯津三敬病院が付け加えられています。さすがに気がとがめたのかもしれません。

ガンの患者学研究所(以下、ガン患研)は2003年に「ガンを治したい千人と治った百人」を集めて千百人集会を開きました。今年(2010年)6月には第2回千百人集会を開いています。この集会は運動の成果を世間にアピールするチャンスであり、活動の資金面でも大きなウエイトを占める一大イベントです。第1回千百人集会に参加した(会場には入れなかったそうだが)船瀬俊介氏は、会場へ向かう道路が参加者でいっぱいだったと感慨深げに書いていますが、果たしてそうなのでしょうか。

ガン患研では「治ったさん」を次のように定義しています。
<基本3原則>

  1. ガンがない
  2. 生活習慣が改善されている
  3. 自他ともにウェラー・ザン・ウェルと認められる

<付帯条件>

  1. 末期、Ⅳ期、Ⅲ期の人は最後の治療から3年以上経過
  2. Ⅰ期、Ⅱ期の人は最後の治療から5年以上経過
  3. 自然退縮の場合は何期であってもガンが消えてから1年以上経過

これに当てはめると、私も「治ったさん」の資格がありそうです。どんな内容なのか、無料なら私もこの集会を覗いてみようかと思っていましたが、参加費用24,000円には、驚いて止めました。

日本には300万人のがんサバイバーがいるといわれています。毎年30万人が新たにがんと診断されます。この中から100人の治ったさんと1,000人の治りたい人を集める、生きているがん患者を1,100人集めることが、どうして世界初の大変なことなのでしょうか。7年前の第1回の集会に参加した「治ったさん」124人のうち、再発した人はいないのでしょうか。不幸にして亡くなられた人は一人もいないのでしょうか。だとすると、2回目の今年の「治ったさん」100人の中の10人程度は今年の集会に参加していそうなものですよね。

自然退縮=奇跡的治癒が起きて、がんが消滅する例はたくさん報告されています。例えばキャロル・ハーシュバグの『癌が消えた』などにも紹介されています。日本でも池見酉次郎氏や中川俊二氏が報告しているとおりです。『幸せはガンがくれた』には、川竹氏が中川氏を取材したときの様子も書かれています。私は自然退縮の存在を否定するのではありません。プラシーボ効果のように、心が病気を治すことは万人が認めています。従って、自然退縮(自然治癒)の例も精神と免疫の関係として積極的に研究して欲しいと考えています。

この本の中で、中川俊二氏の説として、がん患者の500人に1人は自然退縮しているだろうと書かれています。すると300万人のサバイバーのうち自然退縮した患者は6,000人ほどいるということです。今年の「治ったさん」100人のうち自然退縮した人は13人だそうです。6,000人の中から13人を集めるのは簡単なことのように思えます。川竹氏の言う自然退縮とは、西洋医学による治療を受けないでがんが消失した患者ですから、残りの87人は西洋医学による治療を受けた「治ったさん」ということになります。(この点は重要です。なぜなら川竹氏は三大療法は効果がないとして、事実上これを否定しているからです。これについては後で触れることにします)

このようなサバイバーの体験談を集めても、そこには客観的な法則=こうすればがんが治るという法則を見出すことはできません。「生きているがん患者を集めただけではないか」という疑問に答えることにはならないのです。

ここではガン患研の治療法を仮に「川竹式療法」としておきます。治ったさんは、たまたま治る時期に川竹式を行なったのかもしれません。あるいは、西洋医学による治療が時間をおいて効果を現わしたのかもしれません。川竹式療法を行なったが効果がなく再発・転移してしまった人は無視されています。休眠療法のU医師のクリニックには、名指しはしていませんが、川竹式を忠実にやったが効果がなく、どうしようもなくなった状態で助けを求めてくる患者が何人もいると書かれています。こうした「治らなかったさん」についてガン患研は一切触れません。100人の「治ったさん」の影に何百人、何千人の「治らなかったさん」がいるのでしょう。

パチンコを例に考えてみます。パチンコに勝った100日を分析します。ここでは簡略化して、勝った日にはある釘が右に傾いている台だったとします。これで「パチンコ必勝法」の攻略本を書けるかもしれません。実際、巷にはこの程度の攻略本が氾濫しています。しかし、負けた100日では台の釘はどのような状態だったのでしょうか。勝ったときと同じに右に傾いていたのか、それとも左だったのか。少なくとも負けた100日と比較しなければ、釘の傾きが勝因かどうかはわからないでしょう。(パチンコはやったことがないので、これ以上の深追いは止めておきます)

疫学的調査の基本的な方法を使って、川竹式療養を「やった、やらなかった」と「治った、治らなかった」で2×2の表をつくります。
次の表のマス目に該当するA,B,C,Dの人数を埋めます。

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千百人集会に参加した100人の「治ったさん」はAに入ります。A=100です。体験談はいつもA=100だけを宣伝します。しかし、もしかすると同じようにB=100だったのかもしれません。あるいはBの方が数倍も多いということも有り得ます。Aが100人いようが、Bが500人いれば「川竹式療法」は効果に疑問があるということになります。治らない人の方が多いということです。あるいは、A=100人でB=50人だけれども、C=D=100人いたとします。この場合は治ったのは「川竹式療法」のおかげではない、別に原因があるだろう推測されます。

ガン患研がCやDを調査するのは難しいかもしれませんが、Bが何人かは調査すればわかるはずです(もっとも、治らなかった=死亡ですから、困難な調査にはなるでしょう)。Aをいくらセンセーショナルに取り上げても、B,C,Dのデータがなければ、科学的に有効で納得させるデータにはなりません。

ガン患研のオフィシャルwebには「治ったさん」の体験を実名で紹介しているページがあります。ここに登場する19人のうち、ガン患研の設立(平成9年)以前に発病した方が13人です。昭和41年に乳がんを発病した方まで「治ったさん」とされています。確かに上記の治ったさんの定義には、川竹式療法を実行したとか、『いのちの田圃』の購読者だとかの条件はありませんから、目くじらを立てることではないかもしれません。しかし、要するに”がんになったが生きている人”の体験談を集めて書いてあるだけなのです。(膀胱がんのⅤ期、前立腺がんのⅤ期という方がいますが、がんの病期に”Ⅴ期”があったっけ??)サメの軟骨やアガリクスの宣伝本と何の違いもありません。

とは言っても、彼らの言うことはすべてでたらめで根拠がないとは私は考えていません。そんなことを言えば、その主張が非科学的です。体験談にはまったく価値がないとも考えません。第1回の千百人集会に集まった「治ったさん」124人の80%以上が玄米菜食をしていたそうです(無作為抽出ではないから数字の信頼性は低いが)。そして玄米(全粒穀物)には抗炎症作用があるという研究を合わせてみると、玄米菜食ががんに効果がありそうだという主張がより確からしさを増してくることになります。たった1例の体験からでもより詳細な研究へのきっかけになることもあります。それにはAとBを(更にはC、Dも)比較すること必要です。

一般にニセ科学(似非療法)には次のような特徴があります(菊池誠氏の著作より)

  • ニセ科学(似非療法)は白黒をつける
    二分法をよく使います。ストレスは体に悪い。低体温は病気の元だから暖めればがんも治る。マイナスイオンは悪くてプラスイオンは良い。人間も自然も複雑系ですから、絶対によいものや絶対に悪いものはなく、物事のすべてに両面があるのです。この前の記事に書いたように、本当に科学的であろうとすれば、歯切れが悪くなるのです。
  • ニセ科学(似非療法)は脅す
    「抗がん剤で殺される」などがいちばんわかりやすいですね。水道水にはトリハロメタンが含まれているから飲んではいけない。携帯電話で脳腫瘍が増える、などもこの類です。川竹氏も玄米菜食をいい加減にしている会員を烈火のごとく怒ったそうです。
  • ニセ科学(似非療法)は願いをかなえる
    かなえてくれるように見えるだけですが。それでも「もう治療法はありません」と言われた患者にとっては「最後の希望」に見えるのですね。書店に氾濫する健康本のタイトルを列挙してみれば説明は不要でしょう。私も最初はわけも分からずにずいぶん買いましたが・・・。

ガン患研はホメオパシーとも親和性がありそうです。第2回千百人集会の総合司会を務めた鎌田進さんは、SAMホメオパシーコンサルティングを運営する認定ホメオパスでした。ま、親和性があって当然というか、驚くことではありませんがね。(次回に続く)


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ガンの患者学研究所 (3)” に対して1件のコメントがあります。

  1. 前田 より:

    キノシタ様
    早速に貴重なアドバイスを有り難うございます。一月中旬に忌明けいたしますのでパンキャンに寄付させていただきます。皆様方のご健勝をお祈りしております。

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