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遺伝子検査の問題点

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美人林にて

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最近の週刊誌、特に女性週刊誌ではアンジェリーナ・ジョリーの予防的乳房切除の記事で賑わっています。個別化医療の名で、乳がんに限らず、癌一般に遺伝子(DNA)検査が行なわれるようになってきましたが、癌の遺伝子検査の問題点について考えてみます。

1. 健康保険が適用されない
遺伝子検査も癌の予防的切除も、病気になっているわけではないので健康保険が適用されません。すべて自費になります。遺伝子検査の費用が約30万円、手術費用は胃癌の定型手術で17日入院を参考にすると、127万円。乳癌の場合はこれに乳房の再建手術費用の片方で100万円、両乳房なら200万円が必要です。手術前の検査費用も含めると350万円はくだらないでしょう。これは日本での場合であり、ジョリーの手術したアメリカではどれくらいになるか想像もできません。癌予防のために350万円をポンと出しせる日本人はどれくらいるのでしょうか? 予防的切除をすべきか否かという問題は、庶民には関係のない、経済的に余裕のあるセレブたちの「贅沢な悩み」です。

2. 遺伝子検査の結果は一生つきまとう
遺伝子は一生涯変化しないから、遺伝子検査結果で陽性となったとき、そのリスクを生涯背負っていかなければなりません。治療方法のある病気ならまだ良いのですが、ハンチントン病などのように治療法がない病気になる可能性があると分かったとき、いつ発症するかと常におびえて生活することになります。(癌でも同じか)

3. 遺伝子の機能は一つではない
遺伝子研究は科学であり、科学的真理は常に新たな知識で否定される運命にあります。新しい研究結果が出て、その遺伝子の役割が悪いことばかりでなく、良い役割を持っていることが分かることもたびたびあります。エピジェネティクスの考えによれば、遺伝子の役割は「細胞の周囲の環境」との相互作用により種々に変化するのです。一つの遺伝子で多くの異なった、時には全く逆の働きを持っているのが普通です。

4. 精度100%の検査は存在しない
検査の最後の判定は人間が関わるのであるかぎり、見逃しもある。擬陽性、偽陰性がある。梅澤先生が『アテにならない陰性判定』で病理検査の実情を書いていますが、病理検査でこの程度だから、遺伝子検査は更にアテにならない。日本一の遺伝子検査技術を誇っている秋葉原のUDXヒラハタクリニック(本当かどうかは私は知らない)の提灯記事にはこうある。

遺伝子検査は世界最先端の研究分野であり、分子生物学の専門家であっても、これらの処理には高い技術が要求される。その上、特許などによってビジネスと直結しているため、公表された論文や特許情報などを読んでもノウハウの一部が巧妙に秘匿され、最先端の知識がなければその内容を正確に再現することすら難しいのである。
さらに導き出される結果についても、がん抑制遺伝子の異常や、がん遺伝子の発現、フリーDNAの長さ、メチル化の状態、RNAの濃度などから、「分子生物学」的な知識と、「医学」的な知識とを組み合わせて判断しなければならない。

単純に、陽性が多いからがん、陰性だからがんは発現していない、という判断はできない。海外から遺伝子検査の特許を買って、国内でそのプロトコルどおりに検査をやっても決して簡単にできるものではない。

特許に関していえば、今アメリカで遺伝子検査の特許について係争中であり、近々最高裁の判決が出るそうだ。アンジェリーナ・ジョリーの検査を請け負ったミリヤッド・ジェネティックス社も係争の当事者である。それに合わせたかのようなアンジーの”勇気ある告発”と、それに連動したミリヤッド・ジェネティックス社の株価急騰、遺伝子特許とTPPの知的所有権問題など、興味深い問題であるが、今は措いておく。

5. 親族全体の問題となる
自分が遺伝子検査の結果陽性だった場合、親や子どもにも同じ遺伝子変異がある確率は50%となります。叔父や伯母、従兄弟などの親類縁者全体が「リスクを知らされる」ことになり(知らせるべきかどうかでも悩むと思います)、自分個人だけの問題ではなくなります。母親は納得の上で遺伝子検査を受けたとしても、「もしママが陽性だったら、私はどうなるの? どうすればいいの?」と娘から不安を訴えられるかもしれません。

6. 保険にはいれない、結婚差別、優生主義、就職差別
被災者でもない福島の方たちが結婚差別を受けているとの報道もありました。遺伝子検査の結果で、結婚や就職などの差別を受けるかもしれません。将来、遺伝子検査が一般的になり、住宅ローンの団体信用生命保険に遺伝子検査が要求されたら、家も持てないという時代がこないとも限りません。

7. 「陽性」と診断されたとき、精神的負担が大きい
例えば、このような事例があります。

母を乳がんで亡くした30代の女性の結果は「陽性」だった。「自分の発症の可能性を知りたかった」というが、結果を受け止めきれずにカウンセリングを継続している。
乳がんを発症した妹を持つ40代の女性は今春、遺伝子検査を受けた。「陰性」の結果にも、女性は「夜も眠れないほど不安な日々が続いた」と振り返った。

最後に、アメリカの遺伝子解析の倫理問題研究の中心的存在であるナンシー・ウェクスラーの例を。彼女の母親は、治療法のないハンチントン病患者であり、苦しみながら死んだ。家系を遡ると、3世代前までで6人がハンチントン病で死亡している。ナンシーにも50%の確率でこの遺伝子が伝わっている。遺伝子診断の研究者であったナンシーは、自分の研究成果によって遺伝子診断ができるようになったとき、悩んだ。かつて母親が苦しみ悶えながら死んだのと同じ運命にある、と分かっらどうする。彼女の選択は「知らない権利」「知らされない権利」だった。(化学同人『遺伝子の狩人』より)

癌とハンチントン病では治療できるかどうかの大きな違いがあるが、自分の子どもや親族まで影響する問題には『知らないほうが幸せ』と判断する人が多いと思う。

”健康になるために健康な身体を傷つける”という行為を、おかしいと感じない人もなかにはいるだろうが、日本では費用の問題も含めて予防的切除は普及しないだろう。


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