今日の一冊(85)『日米がん格差』

医療ビッグデータによる日米の医療比較

日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学

日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学

アキ よしかわ
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しばらく「積ん読」だったものをやっと読了することができました。

本書は米スタンフォード大学で医療政策部を設立し、医療ベンチマーク分析の第一人者として知られる医療経済学者・アキよしかわ氏が、医療ビッグデータに基づいて日米の医療を比較し、日米の「がん治療」を巡るさまざまな問題を考察している。また、日本の多くの病院の経営改善を指導して実績を上げている著者でもある。

「医療ベンチマーク」とは聞き慣れない言葉だが、「入院患者の平均在院日数」や「術後感染症の発症割合」「再入院・再手術の有無」などをアウトカムとして、他病院と比較してその病院の現状を分析する手法だと言えます。

この手法を使って日米の病院の「質のばらつき」を調査した結果、日本の病院は「ばらつき」が大きいことが分かったのです。

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「変動係数」とは

変動係数(Coefficient of Variation)は、標準偏差を平均値で割った値のことで、単位の異なるデータのばらつきや、平均値に対するデータとばらつきの関係を相対的に評価する際に用いる単位を持たない(=無次元の)数値です。「相対標準偏差」とも呼ばれます。

ざっくり言えば、ばらつきの程度を表した指標です。ですから、左に位置していることが「医療の質が悪い」ことにはなりません。あくまでもばらつきの大小です。

これをみると、医療費は日本がばらつきが小さい。国民皆保険制度があるのだから当然ですね。アメリカは同じ医療でも高額な病院があればそうでない病院もある。

それ以外のは指標は、例えば膵臓切除(Panc)をみても、術後の死亡率、合併症、救命の失敗、どれも日本の病院はばらつくが大きい。

われわれの実感としてもそうですね。膵臓がんの手術をどこでするかも「当たり外れが多い」というのが実感です。

アキ氏によると、アメリカの病院は、

(アメリカの)多くの学会では病院のガイドライン遵守率を調査し、公表しています。その結果、アメリカの患者は等しく最新の標準治療を受けることができるようになっているのです。

一方で、日本にも専門分野ごとの学会があり、それぞれの学会で診療ガイドラインを出しています。しかし、それが遵守されているかといえば、遵守率の調査は行われておらず、結果も公表されていないためわかりません。日本では、病院のやり方、医師個人の判断や経験に左右され、ガイドラインが遵守徹底されているとはいいがたい現実があるのです。

キャンサーナビゲーション

アキ氏は、日本にも「キャンサーナビゲーション」制度が必要であると説きます。

これは現在、アメリカの医療現場で注目されているがん患者支援サービスのひとつです。ひと言でいうと、がんの闘病生活に必要な知識を有する専門家が、がん患者一人ひとりを個別にサポートする仕組みです。たとえば、低所得者層のがん患者が金銭的な問題から治療の継続を断念していた場合、キャンサーナビゲーションの担い手である「キャンサーナビゲーター(Cancer
Navigator)」は患者の自宅を訪れてヒアリングし、本当に治療が困難か検討します。そのうえで、必要であれば医療の専門家、財務アドバイザー、地域の支援団体への橋渡しを行う――というようなサポートを行います。

ピア・サポーターや、実質的に機能しているとは言いがたい「がん相談支援センター」とは考え方そのものが異なっています。「がん相談支援センター」は患者が足を運ばなければ相談に応じてくれませんが、キャンサーナビゲーターは、患者一人ひとりに必ず付けることが義務づけられているのです。

日本では日本癌治療学会が行っている「認定がんナビゲーター制度」がキャンサーナビゲーターに近いもので、一般人でも参加することができるようです。

アキ氏は、大腸に腫瘍か見つかり(ステージ3b)、がん研有明病院で手術をするのですが、その入院中も「医療経済学者」の目でチェックをしています。そして、変動係数だけではない日本の病院の質の良さ、特に看護師の働きぶりと気遣いに対して、「外から見ていたときと患者になってからの視線からの違い」に気づくのでした。

病院スコープβ版

アキ氏らが運営する、患者が病院の「医療ベンチマーク」をチェックできるサイトを紹介されています。「病院スコープ β版」です。

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手術をするなら「症例数」の多い病院を選ぶことが鉄則ですね。「地域を見る」で東京都を例にすると、「がん研有明病院」が抜きんでています。その他の指標も参考になります。

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キャンサーナビゲーターは、がん拠点病院で研修を受けるが、治療法を提案したりすることはなく、あくまで患者自身を支えることに徹する。
だから、身につける知識は、患者やその家族を「誘導」しないという、支援者ならではの「話法」や「表現」から、心の悩みに対する向き合い方、さらには怪しい治療法などの情報が溢れかえるネット上での「信頼できるサイト」の見極め方など多岐にわたる。

「キャンサーナビゲーター」、日本でも欲しいですね。

病院間のばらつきは分かっても、病院内での「医師のばらつき」もありますね。こちらは「運次第」とも言えるし、患者同志の情報網を頼るか、これしかないですかね。


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今日の一冊(85)『日米がん格差』” に対して1件のコメントがあります。

  1. がぶらってぃ一世 より:

    このキャンサーナビゲーターの役割を包括したようなものが、正しい形のオンコサイコロジスト(精神腫瘍科の医療者)なのでしょう。家庭医の中にも、こうしたケア感をもって対応される方はあるように理解しております。

    オンコサイコロジストは、日本ではあまりにも数が少なすぎますね。がんセンターでは、患者さんご本人以外の受診は保険外となりますし、そもそもアクセスがしにくい状況です。ただ、個人開業で対応されている医師で信用できる方々は確かにおられます。苦悩やつらさを抱えたままおられるがん患者さんには、是非ともたどり着いて欲しいものです。

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