今日の一冊(112)「神経免疫学革命」

この記事の目的は、脳(神経系)と免疫系は密接に連携しており、むしろ免疫系が脳をコントロールしていることを、ミハル・シュワルツの著作を通じて、最新の神経免疫学の発展から明らかにすること。また、脳の健康を保つための方法が、実はがんを治癒に導くための方法と、多くの点で共通していることを示そうと思います。

神経免疫学革命:脳医療の知られざる最前線

神経免疫学革命:脳医療の知られざる最前線

ミハル シュワルツ, アナット ロンドン
2,378円(04/25 19:59時点)
Amazonの情報を掲載しています

脳と免疫系のパラダイムシフト

21世紀の初頭までは、脳や神経系と免疫系とは独立しており、脳の健康と免疫系とは無関係であり、免疫の働きに付きものの炎症は、抑えるのが医学界の常識でした。脳内に免疫細胞はいてはならなかったのです。

こうした常識に挑戦したのが、イスラエルのワイツマン科学研究所の神経免疫学教授で、国際神経免疫学会の会長を務めるミハル・シュワルツでした。

脳は、いわば国境の関門とも言える「血液脳関門」の機能によって安定した環境を保って、繊細な仕事をこなしている。免疫系といえども、この関門を通過することはできないから、脳は免疫系からの援助を受けていないというのが、常識だったのです。

シュワルツらは、用意周到な実験によって、脳と免疫系は二つの密接に絡み合った全身的なシステムであり、たんに接しているだけの関係ではないことを明らかにしました。脳のニューロンのような配線を持たない免疫系が、脳を正しく機能させ、修復し、コントロールしていることを明らかにしたのです。

免疫細胞は、脳の幹細胞づくりを統制し、学習や記憶という認知機能に影響を与え、ストレスにうまく対処する能力を左右していることも明らかにしました。

免疫細胞は、脳の特別な境界(脈絡叢)に存在し、脳に分子を送り込んだり、入っていったりして脳の修復を手伝うのです。肉体の健康が、精神の健康を左右し、思考、判断、学習、感情表現にしかたに影響を及ぼしており、それは免疫系を通じてなされているのです。免疫系は、精神と肉体を繋ぐキープレーヤーの一員なのです。

その結果、うつ、加齢性認知機能低下、アルツハイマー病、パーキンソン病など、中枢神経系の病気を免疫系の角度から眺めて治療をするという、新しい展望が開けてきているのです。

知恵の免疫細胞

T細胞は、自己の細胞は攻撃しないように、胸腺で刷新・教育されてから全身に送り届けられます。みずからの身体の成分を認識して攻撃するT細胞は「自己免疫細胞」と呼ばれ、胸腺で取り除かれます。自己免疫細胞があると、のちに自己免疫疾患を引き起こすかもしれないからです。

ところが、シュワルツらは、この常識にも挑戦して、覆そうとしているます。つまり、病気を引き起こさない自己免疫細胞が存在しており、自己免疫細胞のすべてが「敵」というわけではなく、一部の自己免疫細胞は人間の脳にとって「奇跡の物質」なのだと主張します。

自己の脳の化合物を認識する、脳専門の自己免疫細胞の多いマウスは、少ない普通のマウスに比べて、新しいニューロンの形成が増えていました。また、学習・記憶する能力が高かったのです。

これによって、従来は不要なものと考えられていた脳の成分を認識する自己免疫細胞は、脳の状態を良好に保ち、新しい神経細胞を形成し、学習や記憶の認知機能を維持する上で必要不可欠だということを示したのです。

シュワルツらは、この自己免疫細胞を「知恵の免疫細胞」と呼ぶことにしました。

これによって、身体と精神の老化を遅らせて、健康を維持するための新しいアプローチの可能性が生まれてきたのです。

免疫系を若返らせることによって、精神を若返らせることも可能に見えてきたのです。

「知恵の免疫細胞」が脳に影響を及ぼす仕組み

2013年の実験で、「知恵の免疫細胞」が、脈絡叢という領域から脳とコミュニケーションを取っていることを発見した。脈絡叢

「脈絡叢」は、脳が必要とする化合物を血液から濃し取って、脳脊髄液をつくり、脳室に分泌するだけの器官だと考えられてきた。

しかし、脈絡叢は免疫細胞の指令センターであり、脳と免疫系が接するインターフェイスでもあり、免疫細胞が中枢神経系の内部に入る入口でもあるのです。

脈絡叢は、免疫細胞が離れたところからパトロールするための遠隔プラットホームであり、脳組織への出入りを管理して、「お呼びがかかった」細胞だけを中に入れるようにしている。脳の損傷部分からのシグナルを受取り、生化学的なルートを開いて、控えている治癒を担う選ばれた免疫細胞だけを中に入れるようにコントロールしているのです。

このコントロールが破綻すると、慢性病になったり、脳が老化することになります。

 

寿命が来るまで、健康な脳の活動を保つためには、免疫系を強化することが必要なのです。

60を過ぎても明晰な頭脳を

シュワルツらの研究は、その多くがマウスレベルのものであり、免疫系が脳の正常な機能に果たす役割も、すっかり理解されるにはまだ多くの研究が必要です。

しかし、脳・中枢神経系と免疫系の相互作用を明らかにすることによって、本書は、免疫系と心との関係にかんする革命的な見方を提示するものです。

当然、免疫系が脳に影響を与えているのであれば、脳の活動としての「心」のありようもまた、免疫系にフィードバックされて影響を与えていることが推測されます。シュワルツらは、この点に関して多くを語っていませんが、瞑想に関して次のように述べています。

瞑想は科学文献でますます注目を集めている。いくつかの研究によれば、瞑想をすると認知機能が向上するほか、特に注意、学習・記憶、意識知覚と結びつきのある領域において、脳の活動を表わすいくつかの指標が実際に変化する。瞑想が免疫系の機能を向上させ、病原体に曝されたときの反応における抗体濃度を高められるとする研究も2,3ある。

当面、私たちができる対策として、シュワルツは、歳をとっても明晰な頭脳を保つために、次のことを推奨している。

  • 瞑想:瞑想が免疫系の機能を向上させる
  • 運動:身体を動かすことで免疫系が強化される。逆に激しすぎる運動は、免疫系を弱くする。運動が強迫性を帯びたり中毒化すると、恩恵は失われる。毎日の20~30分の散歩、週に2,3回のサイクリング、定期的なゴルフなどの程度で充分である。

  • 社会との結びつきを維持:ボランティア活動は一つの方法である。
  • 新いいことを学ぶ:図書館に通ったり、新しい趣味に挑戦する
  • 脳を鍛える:クロスワードやパズル、楽器の演奏なども効果がある。
  • 日光浴(ビタミンD3)

免疫力を高める10大食品

また、免疫力を高める10大食品として、次のようなものを挙げている。

  • 魚介類:オメガ3脂肪酸、セレンを含む
  • オリーブ油、キャノーラ油などの植物性油(オメガ3脂肪酸)
  • 濃い緑、赤、オレンジ色の野菜(βカロテン)
  • 柑橘類やベリー(ビタミンCとE)
  • 生きた培養菌を含むヨーグルトなどの乳製品(プロバイオティクス)
  • オート麦や大麦(βグルカン)
  • にんにく(アリシン)
  • 紅茶や緑茶(Lテアニン、カテキン)
  • キノコ類
  • ナッツ、種(たね)、豆(オメガ3脂肪酸、亜鉛、セレン)
  • 卵や脂質の多い魚(ビタミンD3)

このリストを見ると、私も推奨し、がん治療に効果的だと言われるものが多く含まれています。

がんに効く食べ物や生活は、がんが治癒したあとも、惚けずに健康な精神活動、脳を維持することにも効果があることが分かります。

シュワルツがいの一番に挙げた「瞑想」の要素は、サイモントン療法、マインドフルネス、ヨーガにも取入れられているものであり、これらも免疫系を強化して、がんと闘うための有益な手法だと言えるでしょう。


膵臓がんと闘う多くの仲間がいます。応援のクリックをお願いします。

にほんブログ村 病気ブログ 膵臓がんへ
にほんブログ村

にほんブログ村 病気ブログ がんへ
にほんブログ村


スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です