膵臓がん患者の予後改善のために、医療者と患者自身ができること

膵臓がん患者さんの予後改善のために、医療者と患者さん自身ができる重要なことは多岐にわたります。

医療者ができること

  1. 適切な診断と標準治療の提供: 膵臓がんの治療には、手術、薬物療法、放射線治療、緩和ケアがあります。がんが切除可能な場合は、手術単独または手術と薬物療法・放射線治療を組み合わせた集学的治療が行われます。切除不能な場合は、主に薬物療法や薬物療法と放射線治療の組み合わせが行われます。標準治療は、臨床試験の結果に基づいて現時点で最善とされる治療であり、ガイドラインで推奨されています。ただし、ガイドライン通りに治療しても落とし穴がある場合もあります。
  2. 集学的治療と新たな治療法の検討: 膵臓がんでは、一つの治療法で完結することは少なく、手術、抗がん剤、放射線治療などを組み合わせた集学的治療が必要となる場合が多いです。切除不能ながんに対しては、電磁波温熱療法を含めた集学的治療を積極的に検討することで、抗がん剤の効果を高め、使用量を減量できる可能性があり、体調悪化を伴わずに治療継続に繋がる可能性もあります。また、粒子線治療(重粒子線治療、陽子線治療)やSBRT(体幹部定位放射線治療)、ナノナイフといった新しい放射線治療についても、適用可能な場合があります。特にSBRTは転移性肺がんや5個以内のオリゴ転移にも保険適用が拡大しており、比較的多くの部位に照射が可能になっています。
  3. 緩和ケアの早期からの導入: 緩和ケアは決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まり、体や治療に伴う痛み、精神的なつらさを和らげるために、がんの治療と並行していつでも受けることができます。緩和ケア医や看護師、薬剤師、管理栄養士、リハビリ職などが集まるチームが相談にあたります。早期から緩和ケアを受けた群の方が、不安や抑うつが改善し、生存期間が延長したという研究結果も示されています。
  4. 心身のつらさへの対応: 治療に伴う痛み、精神的なつらさ(不安、落ち込み、不眠、食欲不振など)に対して、緩和ケアチームや精神腫瘍医、精神科医、心療内科医、公認心理師、精神看護専門看護師などが対応にあたります。痛みに対しては、鎮痛薬や神経ブロック、放射線治療などが推奨されます。
  5. 栄養管理とリハビリテーションの支援: 体調を維持し、治療を継続するためには栄養バランスの良い食事が重要です。管理栄養士が食事や栄養補助食品の利用についてアドバイスしたり、栄養サポートチームが対応したりします。また、治療による体力低下に対して、リハビリテーション科医、理学療法士、作業療法士がリハビリを支援します。
  6. 社会的な問題への対応: 治療費、生活費、仕事との両立などの経済的・社会的な問題については、医療相談室やがん相談支援センターの医療ソーシャルワーカー、看護師、社会保険労務士などが相談に乗ります。高額療養費制度などの公的制度に関する情報提供も行います。
  7. 正確な情報提供とコミュニケーション: 患者さんの希望や体の状態などを総合的に検討し、担当医とよく話し合って治療法を決めていくことが重要です。病状や治療について正確な情報を提供し、患者さんや家族の疑問や不安に丁寧に対応することで、信頼関係を築き、共に治療方針を考えていくことができます。
  8. 遺伝子検査に基づく治療の検討: 病状によってはがん遺伝子検査が行われ、その結果に基づき分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用される場合があります。特定の遺伝子異常(例: BRCA遺伝子変異)に対しては、オラパリブのような分子標的薬が有効である可能性が示唆されています。

患者自身ができること

  1. 信頼できる情報源からの情報収集: がんに関する情報はインターネット上に溢れていますが、信頼できる情報源を選ぶことが重要です。国立がん研究センターがん情報サービスのようなウェブサイトは、標準治療に関する情報が豊富で初心者にも分かりやすいとされています。キーワード検索や根拠不明の情報には注意が必要です。
  2. 医療者との連携と治療目標の共有: 標準治療を基本としつつ、ご自身の状態や希望を担当医にしっかり伝え、治療目標についてよく話し合うことが大切です。治癒を目指すことだけが良い結果に繋がるとは限らず、病状のコントロールや予後の改善を目標とする場合もあります。
  3. 食事と栄養の工夫: 質の高い食事を摂り、必要な栄養素を吸収することが重要です。膵臓がんや治療は消化吸収能力に影響を与える可能性があるため、食事内容や食べ方を工夫する必要があります。
    • タンパク質をしっかり摂る(肉、魚、卵、豆、ナッツ、種子など)。特に赤身肉はヘム鉄の良い供給源です。食欲がない時は栄養補助食品も活用できます。
    • 健康的な脂肪を少量摂取する(オリーブオイル、アボカド、ナッツ、脂肪の多い魚など)。
    • 消化しやすい食品を選ぶ(オートミール、お粥、調理された野菜、ナッツバター、スープなど)。
    • カラフルな野菜を積極的に食べる。
    • 全粒穀物(玄米、古代穀物など)を選ぶ。
    • 十分な水分を摂取する。
    • 偏った食事療法(例: 大量のニンジンジュース)や、過剰な乳製品、砂糖/人工甘味料、過剰な果物(特にバナナ)、加工食品、アルコールは制限または避けることが推奨されています。
    • 楽しく食べることを大切にし、食べられない日があっても気にしすぎないことが重要です。
    • 食中毒のリスクのある食品(生肉、生魚、非殺菌の蜂蜜など)を避けることも重要です。
  4. 運動と体力維持: 治療中や終了後は体力が低下しやすいため、医師の指示のもと、筋力トレーニングや有酸素運動などを行うことが大切です。スクワットや、かかと上げ運動なども有効です。無理のない範囲で、体調に合わせて徐々に強度を上げていくのが良いでしょう。体を動かすことは治療に役立ちます。
  5. 心のケアと精神的な側面への取り組み: 不安や落ち込みなどの精神的なつらさを感じた場合は、我慢せずに医療者や専門家に相談することが重要です。瞑想やヨガ、音楽療法などが不安やストレス軽減に役立つとされており、アメリカのガイドラインでも推奨されています。特にマインドフルネス瞑想などが分かりやすく始めやすい方法として挙げられています。死を意識する経験は、自己のスピリチュアリティ(人生の意味や目的への問い)を呼び起こすことがあります。感情(怒りや悲しみなど)を認め、誰かに話すことも大切です。また、楽観的な考え方は予後との関連が示唆されており、肯定的な言葉を唱えるアファメーションなども試してみる価値があります。自分でできるセルフケア(運動、食事、睡眠など)を毎日コツコツ続けることも、精神的な支えとなります。
  6. 十分な睡眠の確保: 免疫機能にも関わるため、しっかりと睡眠をとることが重要です。特に最初の3〜4時間が大切とされています。飲酒して寝ることは推奨されません。
  7. やりたいことの実践: 定年後やローン返済後などではなく、やりたいことは前倒しで行うことが推奨されています。また、正直な気持ちを伝えたり、会いたい人に会ったり、感謝の気持ちを伝えたりすることも、後悔なく過ごす上で重要です。
  8. ソーシャルサポートの活用: 家族、友人、医療者、患者会などからの情緒的、手段的(実務的な手助け)、情報的サポートを活用することが大切です。同じ病気を経験した仲間と交流するピアサポートや患者会(例: パンキャンジャパン)は、悩みや不安を共有し、支え合う場となります。
  9. サプリメントの利用: サプリメントを利用する場合は、目的に合ったものを選び、信頼できる情報源を確認したり、主治医に相談したりすることが推奨されます。高額なものには注意が必要です。EPA、ビタミンD、クルクミンなどが、効果が確認されている可能性のある例として挙げられています。
  10. 自然に触れる: 森林浴などがNK細胞の活性化に繋がる可能性が示唆されています。

膵臓がんの治療については、今後5〜10年以内に大きな進歩が起こるだろうという見通しも示されています。諦めずに、医療者と協力し、ご自身でできることを日々実践していくことが大切です。


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