21世紀の「帝国主義論」

レーニンは『帝国主義論』において、彼のいうブルジョワ経済学者の著作を引用し、詳細な経済活動の数字を用いて論を進めている。一例を挙げれば、当時の世界列強の鉄道網の総延長距離(本国と植民地の合計)を比較して、鉄道の所有権と金融資本の集中ぶりを論じ、ドイツと大英帝国とにおける鉄道の所有距離と鉄鋼生産高の逆転を指摘し、「資本主義を足場にしたまま、そのような食い違いを解消するとすれば、戦争以外にいかなる手段があるだろうか」と帝国主義戦争の不可避性を主張し、ロシア一国の社会主義革命の実現可能性を論じた。しかしソヴィエトの70年に及ぶ実験は壁の崩壊・社会主義国の崩壊という結末を迎えた。そして「資本の反革命」の時代が始まった。

人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか水野和夫の『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』も、レーニン以上の豊富な資料を駆使している。彼は三菱UFJ証券の経済アナリストであるから、その充実したデータベースを縦横に駆使して表やグラフとして紹介しながら現在のグローバリゼーションの本質に迫っている。

グローバリゼーションの本質とは、20世紀に実質賃金が上がる続けた「労働者の黄金時代」に終止符を打つ「資本の反革命=資本による利潤回復運動」と位置付ける。グローバル経済化における大きな構造変化として3つを挙げている。

  1. 帝国の台頭と国民国家の退場=帝国化
  2. 金融経済の実物経済に対する圧倒的な優位性=金融化
  3. 均質性の消滅と拡大する格差=二極化

そしてグローバル経済を見る5つの法則だとして

  1. 現在の現象に1995年以前の経験をあてはめない
  2. マクロの平均値で経済を見ない
  3. 戦後の景気循環パターンで景気を予測しない
  4. 一国単位で経済現象を見ない
  5. いずれ時間が解決すると考えない

21世紀は「新しい中世」の時代であり、「帝国」=マネーの時代だという。アメリカの住宅バブルと中国の「世界の工場」がグローバル世界経済の両輪だとして、昨年9月のサブプライム問題を先駆的に予測したかのような記述も見ることができる。

著者は証券会社のアナリストにすぎないから、レーニンのようには「では世界は、我々はどうすればよいのか」との問いには答えてくれない。この著作にエッセンスでも知りたいというのであれば彼のインタビューが「藤沢久美のマネー対談」で動画を見ることができる。

ネグリ/ハートの「帝国」以来、日本でも帝国論議が盛んになってきたようだ。新自由主義の反国民性とマネーの傍若無人さがますます人々に犠牲を強いる時代になってきた。「アメリカ合衆国は、そして今日ではいかなる国民国家も、帝国主義的なプロジェクトの中心となることはできない。帝国主義は終わったのだ。近代のヨーロッパ国家のような方法で、世界のリーダーになれる国はもはや存在しない」とネグリは「帝国」で主張する。


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