すい臓癌の新しいエビデンスと治療薬

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で、「すい臓癌の手術後の再発を抑える本格的な薬」として、こんな記事が配信されている。

【米国臨床腫瘍学会“ASCO”2008】
すい臓がんの手術後の再発抑える本格的な薬

すい臓がんの手術ができる人は幸運だ。すい臓がんは体の奥深くにできて見つかりにくく、自覚症状が乏しい。だから発見されたときには手遅れで手術もできない人が多く、日本では発症2年以内に9割近く(約2万人)が亡くなる。

 しかし、もし仮に手術ができたとしてもホッとできないのが、すい臓がんの恐ろしいところだ。例えばすい臓がんの中で70%を占めるすい頭部がんは、再発率が約90%と非常に多い。がんが消えても、まったく安心できないのだ。そんな極悪がんに苦しむ患者にとって、今年のASCO(米国臨床腫瘍学
会)は一条の光ではないか。

 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科の奥坂拓志医長が言う。

「実はすい臓がんには、手術後の再発予防のための標準的治療法が存在しません。科学的根拠(エビデンス)のある効果的な治療法が見つかっていない
からです。それで、再発予防のために、“手術後の抗がん剤治療はやってもムダ”という医師が少なくありませんでした。今回のASCOで延命効果が期待できる本格的な手術後の補助化学療法が報告されたのです」

 ドイツの研究者がすい臓がんの切除手術をした354人に対し、手術後にゲムシタビンという薬を投与したグループとしないグループとを比較。症状が進行しなかった期間は前者が13.4カ月、後者が6.9カ月。5年生存率も前者が21%、後者は9%だったという。

「ゲムシタビンは進行すい臓がんに効くことは知られていましたが、手術後の再発を抑える働きがあることが報告されました。欧米人の患者が対象とは
いえ、2倍以上の差があったのは大変なことです。発表後のディスカッションでも、最高のエビデンスが得られたと評価されました。今後、ゲムシタビンは進行すい臓がんだけでなく、術後の補助化学療法の標準治療になると考えられています」(奥坂医長)
【日刊ゲンザイ 2008/7/7掲載】

ゲムシタビンというのは一般名で、薬品名としては日本ではジェムザールのことです。

無病生存期間が2倍に伸びたという記述は、私が6月6日のこのブログで紹介したJAMA誌の内容とは異なります。JAMA誌では5年生存率に「統計的に有意な差はない」とされていました。どちらもドイツでの治験のデータだというから同じものか違うものなのか、調査してみる必要があります。

癌の治験データではこうしたことはよくあることで、患者グループが違えば結果にこうした「ゆらぎ」があっても不思議ではないと思われます。

私も半年間、術後補助化学療法としてゲムシタビン(ジェムザール)の投与を受けたのですが、これが5年生存率で2倍以上の効果があるとすれば、うれしいことです。

もう一つは金沢大学がん研究所の向田直史教授らが発見したという、膵臓がんの新しい薬です。

膵癌に効く抗がん物質 金沢大:向田教授ら開発 新薬に期待

肝臓や膵臓(すいぞう)などのがん細胞を増殖、不死化させる遺伝子「Pim―3」を
抑制し、がんの治療効果がある新たな化合物の開発に、金大がん研究所の向田直史教授と
医薬保健研究域薬学系の石橋弘行教授らが成功した。従来の抗がん剤より効果が強く、治療が困難な膵臓がんにも有効であることを実験で確認した。八日までに特許を出願してお
り、新たな抗がん剤の開発が期待される。

 向田教授らは二〇〇三年、マウスの肝臓がん細胞で活性化している「Pim―3」を発見した。人間の肝臓がんや膵臓がん、大腸がんでも発現し、がん細胞の生存と増殖に作用
していることが分かり、「Pim―3の抑制ががん治療に応用できる可能性がある」(同教授)とみて研究を進めてきた。

 新しい化合物は、石橋教授と医薬保健研究域薬学系の谷口剛史助教が合成した。試験管内で増殖させた人間の膵臓がんや肝臓がんなどの細胞にこの化合物を加える実験では、P
im―3の働きが抑えられ、がん細胞が死滅することを確認した。

 現在使われている抗がん剤にPim―3を標的にしたものはないため、この化合物が治療薬になれば、膵臓がんなどこれまでの化学療法が効きにくい種類のがんにも効果が期待
できるという。

 向田教授らは「マウス実験で化合物の安全性や有効濃度を確かめた後、臨床試験を経て
なるべく早く新薬として製品化したい」と話している。この成果は十月、名古屋市で開かれる日本癌(がん)学会の学術総会で発表される。

金沢大グループ、抑制の化合物開発 特許申請、すい臓用新薬として期待

 がんの中でも治療が難しいすい臓がんなどに見られるがん細胞の増殖を抑え、死滅させる新たな化合物の開発に、金沢大の研究グループが成功。6月
19日に特許申請した。すい臓がんの新たな抗がん剤創薬につながると期待される。試験管レベルだが、今後、動物実験で安全性などを確かめる。研究成果は
10月に名古屋市である日本癌学会で発表する。

 向田直史・がん研究所教授(腫瘍(しゅよう)学)と石橋弘行・医薬保健研究域薬学系教授(有機化学)らの研究。「学部」の垣根を超えた、学内での“医薬連携”が成果に結びついた。

 向田教授らは03年に発見した、マウスの肝臓がんで特異的に働くたんぱく質「Pim-3」が、ヒトのすい臓、肝臓などのがんでも働いていることを確認。これが、がん細胞の増殖を促すと同時に、不要な細胞を死に至らせるアポトーシスという機能を妨げる働きがあることを突き止めた。

 一方、石橋教授らは「Pim-3」が働くメカニズムや分子構造を踏まえ、その働きを阻む物質を人工的に合成することに成功。実際に試験管内でヒトのすい臓がんの細胞などに加えたところ、死滅することを確認したという。

 向田教授は「特にすい臓は体の深部にあり、臓器自体も小さく、外科手術が難しい。新しい抗がん剤が求められている」と指摘。「新開発の化合物は特定のたんぱく質に働き、副作用も少ないと考えられる。安全性などの課題をクリアしていきたい」と話している。

 

まだ試験管レベルでの効果ですから、マウス実験を経て新薬になるまでは5年以上はかかるのではないでしょうか。生きてさえいれば、新しい薬がどんどん開発されます。そのためにも標準的な抗がん剤治療で命を縮めることをしないで、休眠療法で延命していれば、新しい薬の恩恵を受けることができるかもしれません。


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