「がんもどき」理論を検証する (1)

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近藤誠氏は『あなたの癌は、がんもどき』において、「がんもどき理論」の眼目は

がんもどき理論の眼目は、発見された時点で(身体のどこにも)臓器転移がない癌は、その後放置しても転移が生じない、と主張した点にあるのです。この主張の当否を判断するには、臓器転移がいつ生じる(成立する)かを検証する必要があります。

として、「原発病巣と転移病巣が同時の存在する場合には、大きさの比較から、転移時期が推定できます」と説明しています。そして逸見政孝氏のケースを例に転移時期を計算しています。計算過程は省略しており、結果だけを「転移成立時の原発病巣サイズは、250ミクロンです。この大きさではいかなる検査をもってしても発見不能です」と言い切ります。

それが的を得ているのかどうか、数式をもって検証してみます。

Wshot00200

転移が成立するまでの時間から、転移時の原発病巣サイズは上の式から計算できます。近藤氏もたぶん同じ計算過程で推論したのだと思われます。

しかし、この計算過程ではいくつかの「仮定」が導入されています。ひとつは、原発病巣の分裂周期と転移病巣の分裂周期が同じであると仮定している。さらに、がん細胞の分裂周期はどの時点においても同じであると仮定しています。さらに、がん細胞の充填率も原発病巣と転移病巣で同じであり、かつどの時間においても充填率は変化しない、と仮定しています。

つまり、R1とR2及び一種類の分裂周期という、3つの変数だけで転移時期を計算するには、上の仮定を導入する必要があるのです。

がん細胞の分裂周期が一定でがん細胞の数は指数関数的に(2^x)増大するというSkkiperモデルとして知られています。近藤氏の主張を図にすれば下の図のようになるでしょう。

R1

検出限界付近で転移病巣が発見されたときの、原発病巣との大きさの比較で計算して、ごく初期に転移が成立しているはずだという計算です。

がんの自然史には、Gompertzian腫瘍増殖曲線という別の仮説もあります。最初はゆっくりと成長し、中間では指数関数的に増殖、検出限界以上の領域ではまたゆっくりと成長するという説です。

Kanwa003

また、Skkiperモデルであっても、原発病巣と転移病巣では増殖速度=分裂周期が異なるという説もあります。これは、がんの休眠療法でおなじみの高橋豊氏が『癌転移の分子医学 (新臨床医のための分子医学シリーズ)
』で説明しています。高橋氏は「癌の時間学」を研究する仮定で休眠療法を思いついたといわれています。

Img

がんもどき理論の根拠のひとつではありますが、近藤氏の理論はいくつかの仮定(しかも別のモデルもある)を導入することによって成立する「仮説」にすぎません。もちろん近藤理論が正しいのかもしれません。あるいは、別のモデルが正しいのかもしれません。

しかし、複雑系であるがん細胞が、周囲の細胞やさまざまな人体の化学反応、免疫系などとの関係に影響されているのですから、分裂周期が一定不変で、転移癌も原発源も同じであるという仮定は、いかにも単純すぎるのではないでしょうか。


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