治すのはあなた自身です
「市民のためのがん治療の会」に掲載された吉村光信さんの「がんと心もよう」がすばらしい。
吉村さんは製薬会社で新薬の臨床開発に従事していた方です。健康診断でたまたま肝がんが見つかり、当初は手術可能といわれたが、いつのまにかステージⅢbで手術不可に。当時は肝がんに効果的な抗がん剤はなく、それでも臨床試験で5-FUを試したら劇的に腫瘍が縮小した。そして手術が可能となったが、難しい手術を引き受けてくれる病院がない。それでも自ら調べて東京医科歯科大学の有井教授に行き着いて執刀してもらう。がんとの闘いは情報戦であり、情報収集の大切さも強調している。
「治療法はありません」と言われたときの受け止め方としてこのように書いている。
不幸にも医療者の心ない言動に傷つきそうになった時には、この人たちは正解のある問題に解答するのは得意でも、患者のこころというアナログ的な課題には苦手なんだと思えば、余計なストレス・怒り、不信感をそらすことができるかも知れません。
二人に一人ががんになる時代だから、「どうして俺が」ではなくて、「妻でなくて良かった」と発想を変えてはどうかとも提案する優しい方です。
新薬の臨床研究に関した仕事をされた方ですが、代替療法についてもエビデンスがないと拒否するのではなく、「直接的な治療効果を示すデータがないということがすなわち、その療法がその人に無効ということではありません。」と里芋パスタやアーユルヴェーダなど経済的負担にならないものを選択して実行しています。
がん治療においては、正常細胞のごとく身を隠しているがん細胞を見破り攻撃できる自らの免疫力が決め手になると考えています。この免疫力はストレス、絶望感、うつ状態により極端に低下します。
私は超越瞑想(Transcendental Meditation)という瞑想を時間が許す限り行っていました。この瞑想は精神的・身体的ストレスを低減するということで多数の医学・科学論文が公表されており、がん患者に対しては生活の質(QOL)の改善に有効であるという報告があります。また、マインドフルネス瞑想という釈迦の教えにヒントを得た認知療法を、初期乳がん患者に導入してストレスを減少させることで、免疫機能、生活の質(QOL)の改善をもたらしたという報告もあります。
と、これもまた私と同じ考え方です。瞑想は免疫を高める効果が確かにあると思います。ナチスの捕虜収容所から奇跡的に生還した精神科医であり実存主義心理学者であったヴィクトール・フランクルの『夜と霧』からの一節
強制収容所において人々の生死を分けたのは、多くの場合、ものごとへの対処の仕方を決めるのは自分だということを自覚しているかどうか、その苦しみの中に生きる意味をみつけられるかどうかであった。
も引用しながら、
私は生命に対する不可思議さ、畏敬の念から、病気の治癒にはプラセボー効果を含め、人間が持つ自己治癒能力が非常に重要だと考えています。そのために、西洋医学的では根拠がないとされるようなことも含め、いろんな治療法も検討しました。その奥には、このような行動をつうじて、がん治療を医者任せにするのではなく、どんな時でもあきらめることなく、自分で治すのだという強いメッセージを、自らの身体に向かって伝えたいという思いがありました。
という。こうした姿勢こそが、統計を無視してサバイバーとなるための必要条件であろう。同じ考えでがんと闘い、サバイバーとなった同志を見つけた心境です。連載の続きが楽しみです。