臨床試験のデータ捏造疑惑とEBMの危機

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京都府立医大の松原弘明教授による臨床試験のデータねつ造疑惑が話題になっている。毎日新聞「バルサルタン:京都府立医大の効果に関する論文3本撤回」。朝日新聞デジタルの記事が一番詳しいが、有料サイトである。

製薬大手ノバルティスの降圧剤バルサルタン(商品名:ディオバン)の臨床試験データをねつ造したのではないかという疑いをもたれ、3本の論文が撤回されるという前代未聞のできごとである。研究に使われたディオバンの昨年の国内売上高は1083億円。ノバルティス日本法人の製品別売上高ではトップの看板商品である。

日本の臨床試験の信頼性を揺るがす深刻な事態だとして、関連学会も大騒ぎである。松原教授は2月28日付で辞職した。早々に辞職するとは、疑惑を認めたようなものだろう。利益相反はなかったのか、解明されなければならない。

昨年4月、京都大医学部の由井芳樹助教が「異なる薬を使っている患者間で、血圧の平均と標準偏差があり得ないくらい一致している。私には大変奇妙に見える」とする懸念を、英医学誌ランセットに発表したのが、ことのきっかけである。

松原教授の論文不正操作については、こちらのサイト「松原弘明氏の論文の画像捏造・改竄疑惑について」でも論文に載せられたグラフ・画像について、たくさんのおかしな点を指摘している。専用のサイトができるくらいだから、以前から関係者の間では噂になっていたのだろう。一例だけを挙げても、

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論文#1(上)のグラフと論文#2 (下)のグラフで非常に似通ったグラフになっている。さらに上の3つのグラフで、中央と右のグラフは、同じグラフの上下を逆転させたもののように見える。ここでも由井助教が言うように「グラフがありえないくらいに一致している」。どうやら松原教授は不正操作の常習犯のようだ。

このような人物が中心になって実施した臨床試験によって、多くの患者が効果は疑わしく高価なノバルティスの降圧剤バルサルタン(商品名:ディオバン)を服用させられている。

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤)のディオバンは他の降圧剤に比べて高価で、多くの医療費が費やされている。ARBは短期の副作用は少ないが、心不全の患者を対象にした長期の比較試験では突然死が多く起きている。2010年にはがんを11%増やすことが示されている。敗血症による死亡も50%増加したと指摘されている。これらはARBの免疫抑制作用によるものだ。

高血圧治療のガイドラインについては、以前は、上の収縮期血圧が160mmHg、下の拡張期血圧が95mmHg以上が続く場合にのみ治療の対象であった基準が、2000年の新ガイドラインで、上が130mmHg、下が85mmHg未満を目標に血圧を下げることが勧められるようになった。更に2009年の改定でより多くの人が治療が必要とされるように改定された。これで新たに3000万人以上もが降圧剤を必要とする「患者」となり、既に降圧剤を服用している2500万人と合わせて、5500万人、国民の二人に一人が「病人」という異常な事態となっている。二人に一人が病人だなんて、もはや「基準」とは言えない。メタボ検診もそうだが、どうも学会のガイドラインというものには信用がおけない。

医薬品業界・世界のビッグファーマーは、学会のガイドラインを都合良く改定し、臨床試験の結果を操作して利益を上げている。ニューイングランド医学雑誌(NEJM)の前編集長マーシャ・エンジェル氏の『ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実』という本を紹介し、彼らがどのようにして臨床試験データを改ざんしてきたのか以前にこのブログで書いたが、今でもその闇は変わっていない。

ノバルティスはTPPにおいても積極的に自社および米国の医薬品業界の利益を獲得しようと動いている。米国の医薬品業界は米国通商代表部を通じて、公衆衛生・医薬品政策にさまざまな独占的・保護主義的内容を盛り込むことを追求している。例えばオーストラリアとニュージーランドが採用している費用対効果に基づく医薬品制度の変更、ジェネリック薬の市場参入阻止、特許保護期間の延長と特許薬の高価格の維持などである。ノバルティス社は米国通商代表部へ意見書を提出し、これらの一連のロビー活動に重要な役割をになっている。

近藤誠氏が著書『抗がん剤は効かない』などで、日本の臨床試験においてもデータ操作があるのではないかと、生存率曲線の打ち切り例を中心に指摘していた。それに対してがん研究センターのある専門医が「日本においては、昔はいざ知らず、現在ではそのようなことはない。と反論していたが、今回の事態は近藤誠氏の指摘に根拠を与える結果となった。

バルサルタン(商品名:ディオバン)は早々に承認を取り消すべきだ。

臨床試験のエビデンスがEBMを支えているのだが、臨床試験のデータが信頼できないとすれば、私たちはEBMが自分にとって役立つのかよく考えた方が良い。梅澤先生も「エビデンスの信憑性」と題してその点に触れている。


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臨床試験のデータ捏造疑惑とEBMの危機” に対して1件のコメントがあります。

  1. シニアiwami より:

    はじめまして。
    製薬大手ノバルティスの降圧剤バルサルタン(商品名:ディオバン)の臨床試験データが捏造されていたとはショックな話ですね!
    高価なノバルティスの降圧剤バルサルタンを服用させられた人の責任は、一体誰が取るのでしょうか?

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