道元の「生死」観:『正法眼蔵』がおもしろい

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道元の『正法眼蔵』は難解だ。石井恭二や増谷文雄の訳を読んでもなんだか分かったようで、よく分からない。

諸法の仏法なる時節、すなわち迷悟あり修行あり、生あり死あり、諸仏あり衆生あり。万法ともにわれにあらざる時節、まどひなくさとりなく、諸仏なく衆生なく、生なく滅なし。仏道もとより豊倹より跳出せるゆゑに、生滅あり、迷悟あり、生仏あり。しかもかくのごとくなりといへども、花は愛惜にちり、草は棄嫌におふるのみなり。

「もろもろのことどもを仏法にあてていうとき、迷悟があり、修行があり、生があり死があり、諸仏があり修行がある。よろずのことどものいまだ我にかかわらぬ時には、迷いもなく悟りもなく、諸仏もなく衆生もなく、生もなく滅もない。」と、このように置き換えられても、道元の言わんとするところが伝わってこない。私が理解できないだけなのかもしれないが。

道元断章―『正法眼蔵』と現代
むしろ学者でない人の書いたもののほうが、胸にすとんと落ちてくる。古書でしか手に入らないが、中野孝次の『道元断章―『正法眼蔵』と現代』が良い。有名な「現成公案」の薪と灰の章がある。

たき木、はひとなる、さらにかへりてたき木となるべきにあらず。しかあるを、灰はのち、薪はさきと見取すべからず。しるべし、薪は薪の法位に住して、さきありのちあり。前後ありといえども、前後裁断せり。灰は灰の法位にありて、のちありさきあり。
かのたき木、はひとなりぬるのち、さらに薪とならざるがごとく、人のしぬるのち、さらに生とならず。しかあるを、生の死になるといはざるは、仏法のさだまれるならひなり。このゆえに不生といふ。死の生にならざる、法輪のさだまれる仏転なり。このゆえに不滅といふ。生も一時のくらいなり、死も一時のくらいなり。たとへば、冬と春とのごとし。冬の春となるとおもわず、春の夏となるといはぬなり。(現成公案)

中野孝次は「道元は、わたしの時間観念、因果観念、生死観念を根底からくつがえし、ぶっ壊してしまうような、おそろしいことを言っているのである」と驚愕する。薪の時は薪があるだけ、灰の時は灰があるだけ、過去と未来という関係ではないのだ。死んだ後に生になることは決してない。生が死になるとも言わない。生は生で完結しており、死は死で完結している。

「全機」の章ではまたこのように言う。

現成これ生なり、生これ現成なり、その現成のとき、生の全現成にあらずといふことなし、死の全現成にあらずといふことなし。この機関、よく生ならしめ、よく死ならしむ。この機関の現成する正当恁麼時(しょうとういんもじ)、かならずしも大にあらず、かならずしも小にあらず。遍界にあらず、局量(こくりょう)にあらず。長遠(ちょうおん)にあらず、短促にあらず。いまの生はこの機関にあり、この機関はいまの生にあり。生は来(らい)にあらず、生は去(こ)にあらず。生は現(げん)にあらず、生は成にあらざるなり。しかあれども、生は全機現なり、死は全機現なり。しるべし、自己に無量の法あるなかに、生あり、死あるなり。

生も死も、全宇宙のすべての要素が相互に関連し、ダイナミックに運動する中での、「私の生であり、死である」というふうに解釈した。ここには仏教の、死んだ後に極楽浄土に生まれ変わるとか、永遠の輪廻転生という考えは見られない。全宇宙の存在が、「今ここに」ある瞬間に、相互に作用し合い、生として現成し、死として現成しているのだ。だから、生が死になるのではなく、全宇宙のダイナミックな働き(全機現)としての生であり死であるからして、生の前後はあるが、前後は裁断しており、死の前後も裁断しているのである。生と死だけに因果関係があるのではない。

がんになれば誰しも死を意識する。道元を読むも良し。良寛もいい。老子だって2500年読まれている。自分なりの生と死のとらえ方を考えてみるのも良い。


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