「患者申出療養」は早い者勝ち

昨年の6月13日、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3師会が記者会見を行い、日本医師会会長の横倉義武氏らは、「患者申出療養」制度について、安全性や有効性、将来的な保険収載などについて「最低限の担保がされた」と評価して、患者申出療養の受け入れを表明しました。その時点でこの制度の実現が確実になったのでした。私に言わせれば「裏切り」です。

そして今年の5月27日、医療制度改革関連法案が参院本会議で可決され、成立しました。

これが本当に難病患者の希望に添ったものなのか。ここにきて大きな問題も持ち上がっています。

これらの法律は、厚生労働省の専門家会議などから提案されたのではなく、政府の規制改革会議 「規制改革に関する第2次答申」で提言され、昨年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014年の中に創設が明記されたのです。

閣議決定された成長戦略には次の文章が潜り込まされているのです。

  • 費用対効果が低いとされた医療技術について、継続的に保険外併用療養費制度が利用可能となる仕組みを検討する
  • 有効性は認められたものの、保険適用が見込めない医療技術についても同制度上の在り方を検討する

1点目は、今の評価療養の中にも高額であるため塩漬けしたまま保険適用をしていない医療技術はありますが、それを半永久的に保険適用外に置こうということです。2点目は、有効性が証明されたからといって、かならずしも保険適用になるとは限りません。も高価な薬は保険適用しません。お金のある人が混合診療で使ってください、ということでしょう。

「患者申出療養」制度は、未承認の薬を使いたいと希望する患者が、治療や薬を医療機関に申し出る仕組みです。その医療技術が「前例のない診療」の場合は安全上のリスクがあるため、申し出先は全国15カ所の臨床研究中核病院などに限られます。中核病院は国に申請し、国は専門家会議を招集し、安全性などに問題がなければ原則6週間で了承します。一方、患者の希望する治療が「前例のある診療」なら、身近な医療機関にも申し込めるのです。

「患者申出療養」制度は、臨床研究中核病院が実施計画を作成して行うとされていますが、適格基準外へは個別に実施計画を作成するものの、プロトコルは「含まない」と国会で答弁しています。つまり、プロトコルを逸脱した患者のデータが集まるのです。バイアスてんこ盛りのデータは役にたちません。単に症例データにしかなりません。症例データは科学的統計学的に意味がない症例報告にすぎず、統計的判定にはまったくなじまない代物です。幾ら症例を集めても保険収載には繋がらないのです。

プロトコルとは、治験を実施にするにあたって、治験実施者(治験を実施する医療機関)及び治験依頼者(製薬メーカー)が遵守しなければならないその治験に関する要件事項を全て網羅記載した実施計画書です。「その治験の全てを記述した絶対的な法律」です。これを逸脱したら「治験」とは言えない。

保険収載に必要とされる「安全性・有効性・汎用性」が科学的・統計的に証明されるはずがないから、多くの治療技術・薬剤が「有意差を証明できない」として保険収載されないことになります。

一旦その薬が保険対象外となってしまうと、それ以降「安全性・有効性・汎用性」が証明されなかったその薬は一切使えなくなってしまうのです。それでも使いたいという患者は、一切の医療行為・薬が全額自己負担になります。

つまり、未承認の抗がん剤を「患者申出療養」で使いたいのなら「早い者勝ち」です。もたもたしてて保険収載されないと決まったら「患者申出療養」は使えなくなり、全額自己負担の混合診療となってしまうのです。

こんな悪法を無理矢理成立させたのは、がんなどの難病患者の「思いに応える」ふりをして、本当の狙いは別だからです。社民党の福島瑞穂議員の質問に対して、安倍総理が「困難な病気と闘う患者の思いに応えると同時に、成長分野としての我が国の医療のイノベーションにも資するものであると考えております。」と応えたとおり、経済復興が第一の目的だからでしょう。成長戦略として「規制改革会議」が打ちだしたのであって、「患者の思いに応える」というのは、後から付けたオブラートに過ぎないのです。


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