今日の一冊(60)『抗がん剤治療の正体』

全がん協生存率データとの比較

8日に発売になったばかりの、低用量抗がん剤治療を行っている梅澤先生の最新著作です。

低用量抗がん剤治療について「がん撲滅サミット」における騒動がありましたが、この著作でタイムリーに患者さんのデータが記されています。

2010年12月から11年5月までの6ヶ月間に大塚北口診療所で治療を受けた、再発または手術不能の末期乳がん患者66人と、手術不能の末期肺がん患者62人の治療成績です。全国がん(成人病)センター協議会(通称「全がん協」)が公表している「全がん協生存率調査」のデータとの比較を載せています。

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大塚北口診療所のサンプル数が少ないのは仕方のないことでしょう。また、この診療所に来るような患者は、自分のがん治療に関して情報収集も積極的な患者であり、その点でバイアスがかかっていると思います。

一方で、標準的な抗がん剤治療を受けてからこちらの診療所にきた患者もいるので、それも勘案すべきです。年齢構成などの調整がされたのかどうかは分かりませんが、エビデンスレベルで言えば、複数の症例報告、症例対照研究になるのかもしれません。

もちろん、当診療所へ来る患者さんには大きなバイアスがかかっているので、このデータの数字だけで、標準治療より長生きできると断言するつもりはありません。

と書かれています。それらを考慮しても低用量抗がん剤治療のほうが、生存期間中央値、1年、3年、5年、10年生存率のどれを取っても全がん協の成績よりは良くなっています。少なくとも、低用量抗がん剤治療が劣るとは受け取れませんね。

「バイアスのかかった数字」でいいんですよ。我々が情報収集して「知識レベル」を高く持てば、バイアスの数字が我々のものになるのだから。学術論議をしているわけではないのですから。自分にとって効果が出るかどうかが大事なわけです。ブログを書いている膵臓がん患者は、より長生きしていると感じますよね。

また、

  • 標準治療からは早々に離脱した方が長生きできる現実があります。
  • 「副作用を容認できる範囲であれば、なんでもあり」が治らないがんへの治療だと考えます。
  • 治らないがんであれば、治療の目的は、現在の平穏な生が続くことであるはずです。
  • がんは縮小しなくても増大しなければ死にはしません。

などと述べています。

標準治療の10%の抗がん剤でも効果がある場合がある。これは三好立先生も同様に書かれていました。

膵臓がんで腹水が消えた例も

我々の関心事、膵臓がんについてはどうか。残念ながら、以前の本でも書かれているとおりで、

手術不能な状態で見つかることの多い膵がんは、治療法に関係なく、治療成績は良くありません。やはり抗がん剤の量は減らした方が長生きは叶うと思います。地獄の治療FOLFIRINOXの11.1ヶ月よりはいい数字が出ますが、概ね16~18ヶ月、最長でも3年程度という悲しい現実があります。

手術不能の膵がんは、無理な抗がん剤治療は避けて緩和ケアに努め、残りの時間を楽しむ方が良いように思います。

と。しかし、

「患者さんの実例」の章では最初に50代男性の膵臓がんの例が紹介されています。

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大学病院で膵頭十二指腸切除術を受けた後、ゲムシタビンを投与するも、8か月後のCTで腹水が見つかり、がん研究センターのセカンドオピニオンの後で大塚北口診療所に来院。

私は最大量のゲムシタビンで効果がなくなったときには投与量を大きく下げると、再度効果がでることを経験的に知っていました。

という梅澤先生の方針で、ゲムシタビン200mgで週1回の点滴を始めた。骨髄抑制が出たので100mg、200mgと調整しながら投与する。患者には自覚するような副作用はまったくありませんでした。腹水が徐々に減少してCA19-9も低下。5か月後には上の写真のように腹水が消失していた。しかし翌年の桜を楽しんだ後、緩和ケア病院で亡くなったそうです。大量の腹水が見つかってから、副作用もなく消失して、一年間は十分に生を楽しむことができたのですから、患者にとっては「宝物のような時間」だったに違いありません。

やはり膵臓がんは厳しいですが、症状の緩和を取っても低用量抗がん剤治療が優れているように感じます。(エビデンスはないだろう、と言われそうですがね。エビデンスは一人の具体的患者の予後までは保証してくれません)

以上は本の後半部分からの感想です。前半には梅澤先生の標準治療に対する考え方、批判など満載です。

低用量抗がん剤治療に関心がある方には、一読の価値ありです。

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今日の一冊(60)『抗がん剤治療の正体』” に対して6件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    ひでこさん。
    朝が早いのですね。着信音で驚きました。
    休眠療法の臨床試験もありましたね。しかし、彼らは「いずれも少数かつ単アームの試験のため、有効性を検討できるものではありません」「エビデンスとは言いがたい」と都合良く反論します。
    低用量で縮小すれば「自然退縮」、抗がん剤で縮小すれば「薬が効いた」とはこれも都合がよすぎます。
    ある医師は、論文検索の結果、「低用量化学療法・休眠療法に関して、有効性を示す質の高い研究はみつからず、むしろ有効性も副作用も、標準治療と差がないというものが見つかりました」と言って低用量抗がん剤治療批判をしていますが、患者にとっては「標準治療と差がない」が副作用もないことが大事なんですよね。

  2. キノシタ より:

    ババリーナふじこさん。
    TS-1は自分で増減できるのが嬉しいですよね。でも、医者に言われるままに無理をして副作用にたえて飲み続けている方も多いです。梅澤医師などは「自分の判断でやめれば良い」と言ってくれるのですが、標準治療オンリーの医者では期待できません。
    >癌は進行につれて顔つきが変わり、ステージ4ともなると様々な顔が入り乱れる
    そうなんですよ。ですから、膵臓がんという名がついていても、遺伝子レベルで言えばそれぞれ別の病気なんです。十把一絡げに、同じ抗がん剤を同じ量の投与することはできないはずです。
    オーダーメイド医療は、それぞれの患者に医療と言うことですが、それじゃ効果はどのように判定するのか。母集団が一人しかいないのだから統計処理はできません。エビデンスの確立は不可能です。
    それもこれも「医療の不確実性」「人間の複雑性」によるわけで、取りあえず方法がないから「膵臓がん」と括って治療をしているだけです。

  3. キノシタ より:

    みのさん。
    パクリタキセルでは、最大量の10%の投与で、アポトーシスの発言が最大になるという、乳がん患者の実験があります。
    みのさんの場合も、少量の抗がん剤によってアポトーシスという可能性もあり得ますね。
    ステージ4aで5年目とは素晴らしいですね。
    他の患者の希望と勇気になります。

  4. ひでこ より:

    私のコメントを取り上げて下さってありがとうございました。
    今回の抗議したのが卵巣がんの患者会というのが、何とも皮肉です。卵巣がんは固形がんの中では抗がん剤が効きやすく、保険で使える種類も多いです。抗がん剤でステージ4でもしばらくがんが見えなくなる人もいるほどなので、低用量でも効果があるケースが多いのは容易に想像出来ます。何年か前、九州大の准教授が進行卵巣がんの休眠療法の臨床試験を行っており、症例は少ないもののはっきり効果あり、と論文に書いていました。卵巣がん患者のステージ4のオプションを潰す行動ではないか、と心配になりました。
    梅澤先生の本も興味深いですね。標準治療に対しては毒舌な先生ですが、10年間続けているブログでは十分勉強させていただきました。TS1とさほど効果は変わらず、ずっと副作用が少ないUFTもそれで知りました。
    こういう症例を見ても尚、標準しか頭にない医師はいます。勝俣医師は、低用量が効かないという結論が先にきてるので、低用量が効いていると思われる例に対して、「自然退縮することもあるから、そっちでしょう」と言ってるのです。急に近藤理論ですか?ほったらかしでどの位胸水がひくと言うのでしょう?
    膵臓がんは手強いですが、三好先生のブログを見ますと、がんワクチンとジェムザールの併用で、リンパ節転移のある膵臓がんの人が4年間お元気と書いてあって、今後の治療に希望が持てる人もいる、と感じました。
    今度のことで、新しい治療を研究する医師たちが萎縮しない事を望みます。

  5. ババリーナふじこ より:

    以前、師匠から「あなたも《低用量抗がん剤治療もどき》でしたか」と言われたババリーナふじこです。
    私の場合は術前にTS-1を飲み始めたら発疹が出ました。そんな時、高橋豊先生の本で、開発者である白坂先生が隔日服用を提唱されていることを知りました。ネットで検索すると論文があったので、試してみました。すると2週間休薬しても消えなかった発疹が、治ってきたのです。
    そこで、主治医に相談して、二人で《こっそり》続けることにしました。「私が元気じゃなくなったら、先生が怒られちゃう!(冗談じゃなくて、立場が危うくなるんだよ)」と危惧したのですが、副作用も最小限で、術後も(三好先生の助言で)3年間続けることができました。低用量だと、耐性もつきにくいみたいです。術後4年経ちましたが、今のところ再発・転移は見られません。
    癌は進行につれて顔つきが変わり、ステージ4ともなると様々な顔が入り乱れる(4aの私の場合もそうでした)とのこと。標準治療ではそれに対処するため、多剤併用療法が実施されることもありますよね。でも、患者一人一人に合わせて、その都度抗がん剤を変えていく、というのが理想だと私は思います。
    漢方薬での治療に似てますね。(そして、ハードクライテリアとしてのエビデンスが無い、という点も)
    それに、そういう治療は時間も手間もかかるし、まず儲からない。実施されている先生方は、真摯に取り組んでおられると思います。標準治療が合う人ばかりではないので、耐えられない人にとって低用量抗がん剤治療は貴重な選択肢の一つだと思います。

  6. みのさん より:

    私は、これまで低用量抗がん剤治療に関して知識がありませんでしたが、この記事を読ませていただいて、もしかして私の場合も低用量抗がん剤治療的だったのかと思い始めています。
    自分の場合は、ジェムザールの投薬中に貧血で減薬が続き、最終的には途中で止めざるを得ませんでした。抗がん剤をいつまで続けられるかが分かれ道とか聞いていましたので、当時は、大いに不安を感じました。
    と言うことで、自分の場合は意図した低用量抗がん剤治療ではありませんが、結果としてかなりの低用量治療となりました。
    それが功を奏したのかどうかは不明ですが、ステージⅣaの進行性膵臓癌のサバイバー4年を過ぎて5年目に入ることが出来ました。
    もしかしたら、自分も期せずして低用量抗がん剤治療の恩恵を受けたのかもしれないと思っています。
    あくまでも、かもしれないレベルですが。

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