エビデンスだけでがん治療ができるのか?(9)

Web交流会のご案内


【日 時】2020年12月12日(土) 13:00~16:00(開場:12:45)
【場 所】Zoomを使ったオンラインの集まりです
【対 象】膵臓がん患者とその家族、遺族
【参加費】500円 (PayPal決済、郵便振替)
【定 員】100名
【内 容】
第一部 がん研有明病院 腫瘍精神科部長 清水研先生の講演
『もしも一年後、この世にいないとしたら ~4000人の患者家族と対話した精神科医の学び~』
第二部 患者さん同士の交流会

ウェブ会議ツール「Zoom」を使ったWeb交流会となります。
スマホだけで簡単に参加することができます。

参加申込受付中です。 詳しくはオフィシャルサイトで


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著名な腫瘍内科医が「エビデンス(科学的な根拠)のない治療を患者に行うことは倫理に反する。ニュルンベルク綱領ヘルシンキ宣言に反する人体実験だ」などと述べています。確かに巷の一部の金儲け第一のクリニックはひどい。このように言いたい気持ちは分かります。しかし、この主張は不十分かつ不適切なものです。

第一に、エビデンスの確立された治療が、目の前の患者に最良の結果をもたらすことは保証されていません。医療は不確実ですから当然です。

第二に、エビデンスがないという状況は次のような場合があります。

  1. 臨床研究が行われた結果、有効性が認められなかった
    多くの代替療法(食事療法、ゲルソン療法、ホメオパシーなど)があてはまるでしょう。患者が自分で選択する分には、自己責任で結構だが、医者が勧めてはいけない。
  2. 臨床研究が行われた結果、害があると分かった
    こんな治療を行うことはまさに倫理に反する行為です。
  3. そもそも臨床研究が行われていない

1.の場合でも、統計的に有意差がないことは、効果がないこととは異なります。そのあたりのことは「エビデンスだけでがん治療ができるのか?(4)」にも書いたとおりです。

問題は3.です。研究を行う意志のない場合。多くの代替療法・サプリメント業者らは、なまじ研究して否定的な結果を得るよりも、現状でも売れているのだから研究をするつもりがありません。研究したくてもできない場合。資金的・時間的にやりたくてもできないこともあります。

研究によって効果は立証されていなくても、目の前の患者には有効だということはおおいにあり得ます。

Aed_2

例えば、病院など多くの公衆の集まる施設にはAED(自動体外式除細動器)が設置されています。しかし、急性心室細動に対する除細動の直接的効果に
対するエビデンス(科学的な根拠)はありません。患者をAEDを行う群と行わない群に、ランダムに振り分けることなどできないからです。ですが、経験上では有効だとされて使われています。

TS-1の単剤投与の場合には、4週投与2週休薬が添付文書にも記載されているエビデンス(科学的な根拠)のあるレジメンです。しかし、多くのがん病院で2週投与1
週休薬が行われています。2週投与1週休薬について、効果をしっかりと検証した試験はありません。TS-1は副作用による中断することがしばしあります。
投与期間と休薬期間を短くすれば継続できることが知られているため、現場の医師の経験と判断で変更されているのです。(胃癌では2週投与1週休薬のエビデ
ンスがある。最近の国内の大規模臨床試験の多くは、2週投与1週休薬がレジメンとなっている)

エビデンス(科学的な根拠)だけでは現場の医療は回らない。

ステージⅡ、Ⅲの胃がん患者に対する臨床試験(ACTS-GC試験)には、TS-1を4週投与2週休薬、1年間継続した場合の結果が出されていま
す。それによれば、TS-1は5年全生存率において死亡率を33.1%低下させます。投与量が予定の70%未満となった場合と、1年間の治療を完遂できな
かった場合には生存率が低くなっています。


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乳がんでも同様な試験結果があり、それらが極端な減薬は効果がない根拠とされています。しかし、副作用は患者によってさまざまです。69%はだめで
71%は良いと単純に割り切って良いのでしょうか。FOLFIRINOXの一剤であるイリノテカンでは、ある種の遺伝子変異がある患者では重篤な副作用が
発現しやすいことが分かっています。単純に体表面積で決めた標準量の〇〇%で切り分けることは、遺伝子解析技術が進んだ現状では不合理ではないでしょう
か。

この意味で言えば、低用量抗がん剤治療は個別化医療(テーラーメード医療)を先取りするものではないか。

「この治療法はエピデンスが証明されていませんが、私の経験からあなたには効果がある可能性があります。よろしければやってみませんか?」と提案するのは必ずしも倫理に反するとは言えないだろう。

もちろん、エビデンス(科学的な根拠)を証明する努力は必要だ。

サイモン・シンらの著作『代替医療解剖』では、エビデンス(科学的な根拠)の検証プロセスを逆転させることを提案しています。通常の新薬や医療行為の臨床試験は、第一相試験、第二相試験、第三相試験、市販後調査と段階を踏んで研究されます。これに対して、既に普及している代替医療やサプリメント商品などを対象にして、

  1. 有害事象を記録し、中央のデータベースに登録する
  2. どんな病気に効果があるかを臨床試験で調べる
  3. 効果が明らかになったら、その治療法のメカニズムを調べる

と逆のプロセスを経てエビデンス(科学的な根拠)を確立する。がん治療学会などが音頭を取って、国民の健康に関する研究であるのだから、費用は政府の予算でまかなうようにする。

今現在がん患者であるものはどうすべきか?

  • 標準医療を無視しない。確率的にも最も効果が得られる可能性が高いのだから、これを無視してはもったいない。
  • 標準医療で効果がなかった場合、その先にはしっかりとしたエビデンス(科学的な根拠)はありません。ないことを承知の上で、より確からしい治療法を探す。その際には症例、実際の患者の声などの低いレベルの情報もエビデンス(科学的な根拠)となり得ます。
  • 治療の目的をはっきりとさせる。何が何でも治りたいのか、来年の娘の結婚式に出たいのか、副作用はいやだから、余命は短くても生活の質(QOL)の高い生活がしたいのか。

どちらを選ぶにしろ、がん細胞だけをやっつけて他の臓器に影響を与えない「魔法の弾丸」はないのだから。

<完>


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