今日の一冊(81)『大学病院の奈落』

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群馬大学病院の腹腔鏡手術を巡る一連のスクープにより、2015年度新聞協会賞を受賞した読売新聞 高梨ゆき子記者の満身のレポートです。

私事ですが、膵臓がんの手術後の2010年でしたか、高梨ゆき子記者の取材を受けたことがあります。背の高い温和でやり手記者という印象でした。ヨミドクターに記事が残っています。

群馬大学病院腹腔鏡手術死亡事故

2010年から2014年にかけて、群馬大学医学部附属病院(群馬大学病院)の第二外科(消化器外科)で行われた腹腔鏡を用いた肝臓切除手術において、術後、相次いで8人の患者が死亡した。8人を執刀したのはいずれも同じ医師で、全員が術後4か月未満に肝不全などで死亡した。同大学病院は最終調査報告書において、全部のケースで医師の過失があったと認めた。この医師が行った別の開腹手術でも患者10人が術後に死亡していることが分かっている。2009年度以降、40代の男性医師による腹腔鏡手術と開腹手術で、18人の患者が相次いで死亡したことになる。(Wikipediaより)

事故の遠因

高梨記者は事故の遠因として、群馬大学病院の第一外科と第二外科の院内派閥争いがあったという。第一外科と第二外科のそれぞれに肝胆膵外科を有しているが、構成する医師の数は全国平均よりも少ない。群馬大学病院ではいくつかの医療事故を起こしてきた。こうした同じ診療科が複数あるのは非合理だとして、一本化すべきであるとの外部評価委員会の指摘もあったが、病院長および学長らはその対策を怠ってきた。そこには群馬大学の生え抜きと旧帝大系の医師との軋轢、群馬大学特有の学風も影響していた。

また、当時の学長選も絡んで派閥争いに拍車をかけていた。第二外科の教授は手術の経験がほとんどなく、経験の豊富な医師は、派閥争いの混乱の中で退職していった。教授はやむを得ず、前橋赤十字病院にいた40代の医師を引き抜いて自分の配下においたのであった。

40代医師の評価

この医師の人物評価は決して悪くはなかった。

  • 後輩にも優しく、声を荒げたりすることは一度もなかった
  • 不器用だけど、まじめにこつこつ努力する人
  • 上に言われれば、文句を言わずに黙々とがんばる
  • 指示されたことを着実にこなしていく感じ
  • ずるいことやうまく立ち回ることのできない性格
  • 患者にも優しく接し、説明も丁寧だった

こんな医師がなぜ、18人も死亡する事故を起こしたのか。外部委員会も指摘しているが、手術の技量が未熟で基本ができていない。膵頭十二指腸切除術では28時間をかけて、17リットルの輸血をした例があり、この患者(元群馬大学病院の看護師)は死亡した。

当時群馬大学病院は赤字続きで、手術数を増やして経営を安定化する必要に迫られていた。第二外科の教授はそうした要請に応えようと、部下のこの医師にハッパをかけていた。

この医師は上の性格からして、唯々諾々と手術適用外の患者も含めて、無理な手術数をこなしていたのである。

肝胆膵手術の死亡率の全国平均は1.1%であるが、群馬大学病院は10.8%であった。膵頭十二指腸切除術の死亡率の全国平均は2.8%、群馬大学病院は5.6%であった。第一外科も同様に全国平均よりも数倍高かった。

この事故の教訓から病院の選び方

ホロコーストを生き延びたユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントは、ホロコーストの中心人物であったアイヒマンについて、ユダヤ人への憎悪に燃える怪物としてではなく、政府に仕える小役人のようなありふれた(凡庸な)人間として描いている。

彼は愚かでではなかった。完全な無思想性―――これは愚かさとは決して同じではない―――、それが彼をあの時代の最大の犯罪者の一人にした素因だったのだ。このことが〈陳腐〉であり、それのみか滑稽であるとしても、またいかに努力してもアイヒマンから悪魔的な底の知れなさを引き出すことは不可能だとしても、これは決してありふれたことではない。

この40代の医師も、ただ上からの命令に従順に、己の全能力を傾けて黙々と実行したのであろう。そこには悪魔的な医師が存在するのではなく、単に思考停止した凡庸な医師がいただけである。

「病院選びも寿命のうち」と言ってしまえばそれまでですが、手術数だけで病院を選ぶのはリスクがあります。死亡率も合わせて調べることが望ましいです。

次には経営が安定していること。これは病院長らのコントロールと指導がうまくいっていることの指標になります。看護師の離職率も指標になりますね。働く環境が良いと離職率は低くなるだろうし、医師と看護師のコミュニケーションが良好で、ひいては患者の面倒見も良いはずです。


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とは言っても、大都市なら病院を選ぶことができますが、地方では選択肢が一つしかないことが多いでしょう。悩ましいです。

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