今日の一冊(156) 夏川草介「臨床の砦」

医師を主人公とするベストセラー「神様のカルテ」シリーズの夏川草介氏は現役の消化器内科医です。

長野県の感染症指定医療機関に勤め、コロナ患者の治療にあたってきた作者が、「医療崩壊」ともいえる体験をもとに緊急出版したのが本書です。

新型コロナを診療する18年目の消化器内科医・敷島の目線で、今年1月3日から2月1日までの第3波に立ち向かった激動の日々を追った医療ドキュメントです。

の病院でコロナの治療にあたってきました昨年の12月から今年の2月つまりコロナの第3波に対して立ち向かった医療ドキュメント小説です。

周辺の大学病院や大規模医療機関が新型コロナ患者を避けて引き受けない中、唯一の中等症医療機関として患者をすべて引き受けてきました。

しかし、感染爆発に感染症病床はすぐ埋まり、高齢者施設のクラスター(感染者集団)も発生します。こうした患者は継承でもホテル療養とはできません。

認知症のある高齢者が感染病棟に入院する状況は、看護師にとっても過酷です。完全防護した状態で認知症コロナ患者の治療と介護を同時に行わなければなりません。

なかには点滴の針を引っこ抜くいて座り込んでいる患者、感染症病棟を徘徊する患者も現れる始末です。

家族の面会もかなわず、袋に詰められて運び出される遺体。父と娘が同時に感染し、娘が回復して家に帰ったら、近所の人が預かっていた父親の遺骨を持ってきた・・・。遺骨との再開に「どうして・・・」と絶句する娘。

ベッドがなく自宅待機となったりが、持病もあるからと納得できず涙を浮かべて入院を懇願したりする患者たち。

一方で妊婦が濃厚接触者だと分かると、それ以後の診察をすべて断る産婦人科医、見て見ぬ振りをする大規模病院。

「これは本当に医療なのか、許されてよいのか」と悩むが、「正解はない。しかし止まるわけには行かない」と、昼夜奮闘する敷島らの医療従事者たち。

マスコミが時に感染症病棟に入って映像を流しているが、こうした過酷な状況をすべて紹介するのは無理だろう。コロナ病棟の凄まじい状態が、真に迫る筆致で綴られている。

「コロナ診療については、どこに全体の司令塔があるのか、だれが戦略を立てどのような理念で動いているのか、現場の敷島たちにはほとんど見えてこない」

政府や自治体の危機意識のなさ、他の病院の無理解に憤慨しながらも、「正解ではないが、最善を尽くした」と振り返る敷島。

追い打ちをかけるように、院内感染が発生する。

今は第4波を経て第5波。7月30日の通達によって保健所も濃厚接触者の追跡を諦めています。つまり政府や自治体の出す統計が全く頼りにならない状態です。エピデミックに対して科学的な対応するための基礎である統計への無頓着、PCR検査の抑制、場当たり的な対応。戦後最大の危機的状況なのに国会を開こうともしない一方で、オリンピックやパラリンピックを強行する。

小説の舞台となった第3波の長野県以上に、今首都圏はより一層戦場と化しています。「自宅待機」という名の「自宅放置」

この状態を後の誰かがカミュの『ペスト』のように作品にするのでしょうか。

ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもないものであり、数十年の間、家具や下着類の中に眠りつつ生存することができ、部屋や穴倉やトランクやハンカチや反故の中に辛抱強く待ち続けていて、そしておそらくはいつか、人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再びその鼠どもを呼び覚まし、どこかの幸福な都市に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろうということを。

カミュ「ペスト」


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