そうか、もう君はいないのか

作家の城山三郎さんの妻容子さんに対する遺稿のタイトルです。妻の容子さんが肝臓がんで亡くなるまでの思い出でもある。

ほのぼのしたいい夫婦だ。容子さんが高校生で城山さんが学生の時、突然の休館日となった図書館の前で、途方に暮れている二人が偶然にであう風景。『天から降りてきた妖精』のような赤いワンピースの容子さんに一目惚れした城山さん。

そんな容子さんが肝臓癌になる。診察を終えて帰ってきた容子さんは、鼻歌交じりにポピュラーな歌に自分の歌詞を乗せて歌いながら部屋に入ってくる。

「ガン、ガン、ガンちゃん ガンたららら・・・・・・・・」
がんがあきれるような明るい歌声であった。城山さんの腕に飛び込んできた容子さんを、ただ抱きしめるだけの二人。

そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)

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それに似た思いに耽りながら、我が家の愛犬マロンが逝ってから、もう3週間以上が過ぎてしまった。

そうか、もう君はいないのだ。

ベッドや水飲み用の入れ物など、まだ捨てられずにいる。遺骨が兄貴分のメロン君と一緒に仲良く並んでいる。

24日の東京新聞「筆洗」にすてきな文章を見つけた。

昨日からの大雪で町中は真っ白いです。夜遅く、工場から歩いて帰る道。男は雪の中に犬の足跡が続いているのを見つけました。

こんな雪の夜にどこの犬だろう。男は不思議に思い、足跡を追い掛けることにしました。川沿いの道をしばらく進むと足跡が止まり、雪が踏み荒らされたようになっています。うれしくて踊ったような跡です。「ここはやさしいおばあさんの家だ」。男は思い出しました。

足跡はまだ続いています。今度はずいぶんとはしゃいだようで雪が派手に乱れています。「ああ、ここはハナミズキの木の下だ」。春には白い花を咲かせ、秋には赤い実でみんなを楽しませてくれる。男は思い出しました。

足跡はこんな調子でときどき、立ち止まったり、うれしくて踊ったりしたような跡を残しながら、続いています。男もうれしくなって足跡を追い掛けていきます。

ついに足跡が終わった場所にたどりつきました。よほどうれしかったのでしょう。足跡は今までにないほど踊っています。跳び上がっています。

その足跡の持ち主が誰なのか、男ははっきりと知りました。そこは男の家の前でした。ドアの前にハナミズキの赤い実が置いてあります。つまみ上げると半年前に旅立った犬のにおいがしました。

「ありがとう」。雪はまだ降っています。空を見上げると鈴の音と犬のうれしそうな声が確かに聞こえました。

2021/12/24 東京新聞「筆洗」

そうなんですよね。犬の匂い、シャンプーした後の匂い、おしっこ臭い匂い。嬉しそうな鳴き声、悲しそうな鳴き声。寝言を言う犬。

そんなこんなを、ふと思い出す毎日です。


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