奇跡的治癒例は、がん治療の手がかりとなる(NCI)
奇跡的治癒例は、予想以上に起きている
がん治療においては、通常は治るはずのない患者が治ったり、腫瘍が突然消えてしまうようなことが起きることがあります。
こうした例外的な治癒例は、1万人に1人とか5万人に1人などと推測されていますが、きちんとした統計が取られているわけではありません。
しかし多くの医者が、多かれ少なかれ、こうした奇跡的な事例を経験しているようです。
「もう治療法がありません」と、治らないと言われたがん患者にしてみれば、「せめて俺だけには奇跡が起きて欲しい」と切実に願望するのはしごく当然でしょう。
奇跡的治癒例、例外的奏功症例は確かにあるのですが、統計データでは「外れ値」として、患者にしては「運が良かったね」で終わっている。
例外的な症例の共通点を探そうとか、例外的に治った機序を研究しようとかの考えはあまり浮かばないようです。
ケリー・ターナーの『がんが自然に治る生き方』などという本もありますが、
論文の寄せ集めだとか、異端本の扱いを受けています。
「こうすればがんが治る」などという怪しげな本もたくさん出ているし、単に経験談であったり、科学的根拠がないものも少なくないから、無理もありません。
自然治癒例を集めたこうした本もあります。
米国国立がん研究所(NCI)奇跡的治癒例を研究
奇跡的に治った、あるいは長生きをした症例を研究し、その共通点を見つけることができれば、がん治療に応用することができると期待されます。
米国国立がん研究所(NCI)が、11月19日付のCancer Cell誌に公開した論文で、ゲノム解析的アプローチから、例外的奏功症例の特徴を解明しようとする試みです。
NCIの研究者たちは、例外的奏功症例(エクセプショナル・レスポンダー)の 腫瘍の分子変化を確定しました。
これによって予想外に治療の奏功をもたらす可能性のある遺伝的変異が明らかになったのです。
この治験の参加者は、通常は治療が困難とされる転移性のがん患者でした。しかしその患者たちの一部は奏功持続期間が何年にも及びました。
遺伝子の変異や免疫系の大規模な「作動」が関与している
論文の要点をあげると、
- 化学療法など標準治療を受けたさまざまなタイプのがん患者111人の詳しい病歴とがんの検体が用いられた。
- 治療に対して例外的な奏効とされた分子的特徴を同定することができた。
- 分子的特徴には、がんゲノム中での複数のまれな遺伝的変異の同時発生や、ある種の免疫細胞による腫瘍への浸潤などがある。
- 例外的な奏効の元となった機序は、DNA損傷を修復する能力や腫瘍への免疫反応など広範囲のカテゴリーにおよんでいる。
- 治療中にがん細胞を死滅させる遺伝子変異のまれな組み合わせがある。
- 例外的奏功症例の患者において、通常は起きないBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子における遺伝子変異が、患者2人において発生していた。
- これらの患者における遺伝子変異が、腫瘍組織の損傷したDNAを修復する能力を障害していた可能性があり、それによりDNAを害するプラチナ製剤を用いた化学療法などの治療の有効性を高めていると研究者は示唆した。
- また、この研究から、免疫系が「作動」して腫瘍を根絶させる能力を際立たせるような一連の証拠が増加している。
です。
特定の遺伝子変異が、抗がん剤の治療効果を高めたり、免疫細胞の腫瘍への浸潤の程度や腫瘍の微小環境の違いが、患者の免疫力に関係していることも考えられます。
「奇跡的治癒」には免疫系の突発的・大規模な作動が必要と予測できるが、それらに関する一連の証拠も今回の研究で示唆されています。
例外的奏功症例や「奇跡的」には遺伝子変異や免疫系の驚異的な作動が関係していることは明らかです。
光免疫療法の治験では、治療を終わって病院を出る頃には頭頸部がんの腫瘍がドロドロと溶けていくと報告されています。
つまり、人体の免疫系が本来の力を発揮すれば、一晩で腫瘍が消えてしまうことも可能なのです。けっして夢物語ではありません。
このような研究が進み、がん患者に希望がもたらされることを願っています。