膵臓がん治療に光!TTFields併用療法が生存期間を大幅延長し、死亡リスクを18%低減【ASCO 2025】

治療が困難な「局所進行膵腺癌」に新たな希望
膵臓がんは、その診断の難しさや進行の早さから、最も予後の厳しいがんの一つとして知られています。特に、手術による切除ができない「局所進行膵腺癌」の患者さんにとって、既存の治療法だけでは十分な効果が得られないケースも少なくありませんでした。しかし、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)で発表された最新の研究結果は、この困難ながんとの闘いに新たな光を投げかけています。
革新的な治療法「TTFields」とは?
今回注目されているのは、「腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)」と呼ばれる、交流電場を利用した非侵襲的な癌治療法です。TTFieldsは、特定の周波数の電場をがんに照射することで、がん細胞の分裂を阻害し、アポトーシス(細胞の自殺)を誘導するというメカニズムを持っています。これまでの臨床試験でも、脳腫瘍など特定のがん種において有効性が示されていましたが、膵臓がんに対する効果は、これまで大規模なデータで確認されていませんでした。
PANOVA-3試験が示す圧倒的な有効性
PANOVA-3試験(NCT03377491)は、切除不能局所進行膵腺癌の患者さんを対象に、TTFieldsと標準的な化学療法(ゲムシタビン、nab-パクリタキセル)の併用療法が、化学療法単独よりも優れているかを検証した画期的な国際共同フェーズ3試験です。世界20カ国198施設から571名の患者さんが参加し、綿密な比較が行われました。
試験の結果、TTFields併用群は、化学療法単独群と比較して、主要評価項目である全生存期間(OS)を統計学的に有意に延長しました。
- 全生存期間中央値(OS):
- TTFields併用群:16.2ヶ月
- 化学療法単独群:14.2ヶ月
- ハザード比(HR):0.82(95%信頼区間:0.68-0.99)
- p値:0.039
この結果は、TTFieldsを併用することで、死亡のリスクを18%低減できることを意味します。さらに、TTFieldsを実際に28日以上継続できた患者さんを対象とした解析(mITT集団)では、TTFields併用群のOS中央値が18.3ヶ月に達し、化学療法単独群の15.1ヶ月と比較して、その効果がより顕著であることが示されました。
生存期間だけでなく、QOLの改善にも貢献
PANOVA-3試験の注目すべき点は、単に生存期間を延ばすだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)の向上にも貢献する可能性が示されたことです。
- 遠隔無増悪生存期間(PFS):
- TTFields併用群:13.9ヶ月
- 化学療法単独群:11.5ヶ月
- ハザード比:0.74(p=0.022)この結果は、TTFieldsが遠隔転移の進行を抑制する効果を持つ可能性を示唆しています。
- 無痛生存期間:
- TTFields併用群:15.2ヶ月
- 化学療法単独群:9.1ヶ月
- ハザード比:0.74(p=0.027)これは、患者さんが痛みを感じずに過ごせる期間が、TTFields併用群で有意に長かったことを示しています。また、患者さん自身の報告に基づくQOL評価(Global Health Status)も、TTFields併用群で有意に良好な結果でした。
これらの副次評価項目は、治療が患者さんの肉体的・精神的負担を軽減し、より質の高い生活を送ることに寄与することを示唆しており、非常に重要なポイントです。
安全性と今後の展望
副作用については、TTFields群で81.0%にデバイス関連の副作用が認められましたが、そのほとんどは皮膚炎、皮疹、掻痒などのグレード1/2の軽度なものでした。重篤な副作用(グレード3以上)の発現率はTTFields群で9.5%であり、副作用によるTTFieldsの中止は8.4%にとどまりました。これは、TTFieldsが比較的安全に使用できる治療法であることを示しています。
PANOVA-3試験の結果は、切除不能局所進行膵腺癌の一次治療において、TTFieldsと化学療法の併用が新たな標準治療となる可能性を強く示唆しています。この革新的な治療法が、多くの膵臓がん患者さんに希望とより良い未来をもたらすことが期待されます。