老化とがん
キーワードは「エピジェネティクス」
NHKスペシャルで放映された『人体 ミクロの大冒険』が書籍で出版されています。
製作の裏話や放送できなかったことなども紹介されており、興味深い内容です。3回にわたっての放映ですが、この番組に隠されたメッセージは「エピジェネティクス」です。
がん細胞も含めて、細胞の働きは遺伝子だけで決まるのではなくて、どの遺伝子がいつ発現するかを決定しているのは、遺伝子を包むように覆っている分子と他の細胞との相互作用、周囲の環境が影響している、これがエピジェネティクスです。
がん細胞はまわりの細胞の遺伝子を操作して、自分に都合のよいような環境を作り上げていきます。酸素が足りなければ新しい血管を作るように周囲の細胞を変えてしまうのです。(血管新生)
老化とがんの関わりも次第に明らかになってきています。
私たちの身体では毎日5000個もの細胞に遺伝子の異常が生じているそうです。しかし、その異常の程度はピンからキリまであり、放っておけば確実にがん化するものから、それほどでもないものまであります。
それらの全てに免疫を総動員して破壊してしまうことは、多くのエネルギーを費やします。
そもそも細胞から見れば、繁殖期を終わった個体の寿命などには関心がないのです。だから、細胞の戦略としては、それほど危険がない遺伝子異常を持った細胞は、生かさず殺さず、そこにおとなしく居座っていただく。
「老化」はがん対策の戦略上の当然の帰結
これまで老化といえば、身体のあちこちが衰えていくことと漠然と考えられてきました。ところが、バイオイメージングによって、私たちの体内には、いち早く老化する細胞があること、そして、その細胞が周りの臓器や組織に老化をもたらしていることがわかってきました。
その細胞とは何か。
じつは、免疫細胞です。なかでも、免疫システムの司令塔ともいうべきT細胞は、20代では生産がほぼ終わっているために、40代にもなれば衰えを見せはじめます。身体を守るべき免疫の司令塔が衰えれば、さまざまな病気に罹りやすくなるのも当然といえます。
なぜ、T細胞の生産は早々に終わってしまうのか。じつは、つくられたT細胞のうち、実際に活躍するのは5%未満。残りの95%以上は成績不良のために途中で自滅させられます。その過酷なふるい分けの現場が、心臓の上にある胸腺という場所です。今回は、その胸腺内部で繰り広げられている厳しい選抜の様子も映像化しました。
このように免疫は司令塔の95%以上が自滅するという非常に高コストなシステムなので、20歳までに大量につくられたあとは実質的に閉鎖されてしまいます。免疫という細胞社会の仕組みからみれば、20代を過ぎれば「余生」ということなのです。
これにもエピジェネティクスが関わっています。危険性の少ない遺伝子異常を持った細胞の、遺伝子の発現を抑えて、いわば昏睡状態にしてしまうわけです。
こうした細胞がどんどん増えることが細胞レベルから見た「老化」だというわけです。「老化」とはがん対策の戦略上の当然の帰結なわけです。
免疫の司令塔であるT細胞は、骨髄で生産されて胸腺に送られて、自己には反応せず他者にのみ攻撃をするように教育されます。ところが繁殖年齢を過ぎるころ、20歳台以降には胸腺がどんどん脂肪に置き換えられて小さくなります。私の年齢、60歳を過ぎるとほとんどなくなってしまいます。
ということは、T細胞を教育することができない。これまでに作られたT細胞だけでがんと闘う必要があるのです。さらにがん細胞は、T細胞の遺伝子に働きかけて不活発にしてしまいます(これもエピジェネティクスです)。結局5%ほどのT細胞しか、がんとの戦闘に参加できません。これが年齢とともにどんどん少なくなります。
今残されているT細胞を、如何に上手に活かしてがんと闘わせるか。食べ物やサプリメントで免疫力が上がる、といってもなかなか難しいことが分かります。
ところが、わずか5分の自転車漕ぎ運動でも、残された少ない免疫細胞が活発になることが分かっているのです。
ルバーブさん。情報ありがとうございます。
まだ第1相試験ですが、メラノーマとしてすばらしい成績ですね。
肺に転移していても、元気でガーデニングができるほどにまで改善しているのですから。
たぶん他のがんにも効果がありそうです。
がん細胞がT細胞を邪魔するのを妨げることができるとしたら、画期的ですね。
一方で京都大学の研究では、がん細胞からの攻撃から逃れることのできたT細胞を培養して増やし、体内に戻す実験を始めているそうです。まだマウスレベルの実験ですが、こちらも期待できます。
がんとT細胞がくっついてT細胞が働かなくなるらしいのですが、くっつくのを阻害するお薬ができたそうです。今の所メラノーマの患者さんへのトライアルですが、NZのニュースでは他のがんにも応用できるような話を放送していました。イギリスの研究。
下記はBBCの報道です。よろしかったらご覧下さい。
http://www.bbc.com/news/health-27674658