アピタル夜間学校「抗がん剤は効く?」
先週はずっと出張でした。出張先の宿で19日に放映されたアピタル夜間学校「抗がん剤は効く?」を観ることができました。講師は『「抗がん剤は効かない」の罪』などの著作もある腫瘍内科医の勝俣範之先生。(動画がアップされました!)
抗がん剤でがんは治るのか?
抗がん剤では進行がんが治ることはないが、多くの患者が「治る」と考えていることを上げていました。
「各悪性腫瘍に対するがん薬物療法の有効性」という表でも、膵臓がんなどの多くの固形がんでは治癒することはなく、C群「症状緩和が期待できる」に分類されています。
また、「がん情報サービス」にある「腫瘍学概論」という医師向けのパワポ・スライドには、
治りません。しかし、ファーストラインの抗がん剤では延命効果が期待できるが、セカンドライン以降になれば延命効果さえも証明されていないのです。(エビデンスがない!)
したがって、抗がん剤の止め時はファーストラインで効果がないとき、ということになりますね。しかし、それで止めている患者は少ない。それは、希に抗がん剤で腫瘍が縮小した状態が長く続き「治ったもどき」になることがあるからでしょう。例外的患者はいつでもいるのです。
だから、「もしかしたら私も・・・」と考えるのはがん患者としては当然ですね。奇跡を信じなければ辛い抗がん剤に耐えることも難しい。その結果、延々と抗がん剤治療を続け、挙げ句の果てには臨終のベッドでぽたぽたと抗がん剤を点滴しているという、笑えない現実もあります。難しい判断を強いられます。
一般的には、抗がん剤でがんが治ることはないが、延命効果があり、生活の質(QOL)を保った生活を送ることができます。
私は、手術後の早い時期から主治医の先生に「再発・転移したときには抗がん剤治療はやりません」と宣言してあります。今でもその考えに変わりはありません。臨床試験か低用量抗がん剤治療なら考えてみようかと思っています。幸い、再発しないでここまで来たので、主治医に通告することもなく済んでいます。
抗がん剤はどこまで減量することができるか?
講師の勝俣医師は、腫瘍内科医の役割として、三つあげていました。
3つめの「むやみに抗がん剤の投与量を減らさない」の根拠として、乳がん患者の術後補助療法の比較試験のグラフをあげ、65%以下に減量すると無投与のコントロール群と差がなくなると説明しています。
しかしこれは手術可能な乳がんの場合です。手術の適用がない進行がんの場合も同様に考えることはできないでしょう。低用量抗がん剤治療に反対する意見を持っている医師が、上のデータを示して「エビデンスに反している」と批判することは的外れのように思われます。
勝俣医師はまた、最後まで抗がん剤をやると、
と、生活の質(QOL)が低下し生存期間も返って短くなると述べています。抗がん剤を減量することも、緩和ケアの一つの要素なのです。
上のグラフの例では、早期の緩和ケアを行い、末期での抗がん剤治療を止めた方が、2.7か月の延命効果があると示されています。
どこまでなら減量できるのか?
勝俣医師は、低用量抗がん剤治療(休眠療法)には否定的な考えを持っているようです。人体実験だとすら断定しています。しかし、セカンドラインの抗がん剤治療の延命効果が証明されていないのに、現実は多くの患者が、アブラキサンが効かないからTS-1だ、FOLFIRINOXだと言われ、投与されているのです。これも人体実験と言えるのではないでしょうか。
低用量抗がん剤治療もセカンドラインの抗がん剤治療も、エビデンスに乏しいという点では同等のように思えます。
結局は、患者が生活の質(QOL)を保って何をやりたいのか、副作用にはどこまで耐えられるのかを、自分の身体に訊いて個別に判断するしかないのでしょう。
勝俣先生が癌になったらどうするの?
予定された4時限の授業が終わり、放課後の質疑応答で、勝俣先生も本音を述べていました。
コメンテーターが、進行大腸がんに対するTAS102という抗がん剤の生存率曲線について、「先生なら、この治療法をやりますか?」と質問したのです。
TAS102を投与した患者の生存期間中央値は7.1か月、プラセボ群では5.3か月と、1.8か月生存期間が延びるというデータです。
勝俣先生の回答は、「手足のしびれや、声が出ないという副作用がないのなら、やるかもしれない」でした。手足のしびれがあり声が出なければ医師としての仕事ができないと考えての回答ではないかと推察できます。わずか1.8か月の延命効果なら、この抗がん剤は使わない、たぶん家族にも勧めないということなのでしょう。最後は患者自身が生活の質(QOL)と副作用、延命効果を天秤に掛けて判断するしかない、と締めくくっていました。
腫瘍内科医の本音を聞いたような気がします。
膵臓がんの抗がん剤ではどうなのか?生存期間中央値では、アブラキサン+GEMが8.7ヶ月に対してGEM単独では6.6ヶ月と、2.1ヶ月改善されると報告されています。
FOLFIRINOXとGEMとの比較試験の一例では、ゲムシタビンの6.8か月に対してFOLFIRINOXは11.1か月と、4.3か月の延命効果があります。
もうひとつ、タルセバ(エルロチニブ)ではわずか10日!の延命効果です。だからタルセバがほとんど使われていないのです。
ただし、これらの抗がん剤と”無治療”とを比較したデータはありません。人道上できないからです。無治療や低用量抗がん剤治療を選択しても、生存期間が延びるのか短くなるのかは、やってみなければ(やってみても)分かりません。
「無治療」という判断もなかなか決心がつかないから、低用量抗がん剤治療でも、が私の選択なのですが、皆さんのお考えは・・・。
みなさん、たくさんのコメントありがとうございます。
金魚さん。癌も人も百人百様が実感されますね。マニュアル通りにはいきません。そこを分かってくれる医師と出会えるかどうか。医者を選ぶのも寿命のうちかもしれません。
かなやまさま。
日本膵臓学会の「FOLFIRINOX適正使用情報」には、一番目に「十分な経験のある医師による使用」「患者又はその家族への十分な説明と同意」とあります。そして高齢者(65歳以上)に対しては5FUを省略した上での「慎重投与」が必要と書かれています。私の知人(69歳)が、膵癌のステージ4でがん研で治療中ですが、主治医からはFOLFIRINOXは投与しない、とはっきりと言われています。慎重さに欠けた治療だったと思います。
アセットさん。
標準治療だけに頼っていては、標準治療の統計的なエビデンスにしたがって死んでいくだけです。患者としてできることは免疫力を高く保ち体力をつけること。ストレスを溜めず「今この時」を充分に生ききることだと思います。
主人が膵臓癌ステージⅢさん。
私はFacebookをやらないのですが、勝俣医師も職業としての顔と個人としての立場では違うのかもしれませんね。腫瘍内科医としてはどうしてもこうした考えになってしまうのでしょう。エビデンスなどはあくまでも参考値であって、患者の人生や家庭状況まで考えた治療が求められるのですが、いまの医療制度では難しいかもしれません。ただ、勝俣医師は相対的にはまじめでまともな先生だとは感じています。
キノシタさま
いつも為になる情報ありがとうございます。
いつもブログを拝見しています。
私の友人が勝俣先生とFacebookでつながっていて、その関係で勝俣先生のつぶやきをいつも読んでいました。
Facebookの先生の発言は、批判内容が多いような気がします。
勝俣先生自身が癌患者とどのように向き合っているのかよくわかりませんでした。
今回キノシタさまのブログを読んで、ようやく勝俣先生の癌のお医者さんらしい一面を知ることができました。
ありがとうございます。
キノシタさん、アセットです。
膵臓癌患者にとって、
現在抗がん剤治療を行っている我々にとって、
あらためて厳しい現実をつきつけられた記事の内容ですね。
癌に打ち勝つのは、人間が本来もっている
免疫力が主役であり、抗がん剤は別に攻撃して
補助してくれるものだと思っていますので、
必要な脇役だと考えています。
脇役だけで寛解には至らない。
主役に力が足りないときは、脇役の助けが必要だ。
QOLを保ちjながら、脇役をうまく活用すればいいと思います。
はじめまして。
私の父は75歳の時、まだ現役で仕事もしていて
糖尿病はあるものの割と健康と思っていましたがドックにて膵臓癌が発覚し
ステージ4b.肝臓転移でした
膵臓は3センチ肝臓は1センチほど
フォルフィルノックスをして手術を目指すと医師に言われ
体力的に無理ではないかと反対しましたが
元をダメにするまでやったりはしないと医師が言うので信頼して
初回20パーセント2回目からは40パーセント減量で行いましたが
3回目のフォルフィリノックスでノックアウト
飲み食いどころか話もできなくなり
寝たきりで、発覚からわずか半年で亡くなりました
3回目のフォルフィリノックスの後
最後の3ヶ月は自分で出来るのは呼吸位でした
医師は失敗したのだと私は思いましたが
手厚い看護を付けてくれました。
しかし、主治医を責めたことがあります
元が駄目になったんですよね、と
その回答は
手術まで行けてても必ず再発します、とか
膵臓癌発覚して1ヶ月で亡くなる人もいる、とか
フォルフィリノックス使ったのはまだ3人目でした、とか
そんな回答でした。
抗癌剤を使う時はまず経験と知識のしっかりした医師に出会う事が大切かと思います。
副作用は出る前に対抗処置が必要です??
皆様の治療が納得いくものになりますよう心から祈ります。
長文失礼しました。
キノシタ さま
こんばんは、金魚です。
今、サインバルタ減量中で痛み再燃中でモタモタしております。。。
医師の見解ですが、今は専門分化が進みすぎて、がんですらも婦人科がんの専門家は消化器ガンが詳細にはわからないのでは・・・と思います。
そして、人の身体というのは本当に個々に違うので、化学療法もやってみないと何とも・・・と思っています。
特に、私もエンドレス抗がん剤は拒否しようと思っていましたが、補助化学療法を行って経済的に何とかなるなら、セカンドライン以降も何かはやるかも。。と思います。
ただし、気の合う医師と出会えたら・・・ですね。
ここが最大にして最も難しい点で、たかが副作用の対処ですらも中々にわかり合えないものなので、そこが出来ないと厳しい治療になるだろうと思うのです。。。