「病は気から」を科学する
気持ちの持ち方を変えれば、がんは治癒に向かうのだろうか。代替療法が効果がある人とない人に別れるのはなぜなのか。
こうした疑問に対し、『がんに効く生活』のシュレベールは『免疫細胞は、客観的に見て、より”生きる価値”があるように見える人生を送っている人間の体内では、それだけ活発に動くかのように見える』と書いている。
また、ケリー・ターナーが『がんが自然に治る生き方』で、劇的に寛解した人たちに共通している9つの項目とした7つまでは精神的・感情的な項目です。そして、
恐れることをやめなさい。安らかに死に、おだやかに生きるために。治癒する可能性が高くなるのは、身体のバランスがとれているときです。でも恐れを心に抱いていると、エネルギーの場全体がー微細なエネルギーの場も免疫システムもー閉ざされてしまうのです。
と書いています。
保坂隆氏と今渕恵子氏の対談本『がんでも長生き 心のメソッド』には、
- 絶望感に囚われると、がんの進行が早い。
- 免疫力の改善が予後の安定につながる。しかし、これは統計の数字からは見えてこない。
- 患者さんが納得している治療法だと効果が違う
- 「あいつに悪いことが起こって欲しい」というネガティブな感情は、ストレスホルモンのコルチゾールの産生が増え、海馬を萎縮させ、リンパ球の機能も低下させる。
と述べられています。精神が体の免疫系にも影響することは確実なのです。
それでは現在、精神や感情と病気の関係はどこまで研究されているのか。それに答えようとしたのがジョー・マーチャントの『「病は気から」を科学する』です。
彼女はイギリスで気鋭の科学ジャーナリスト。「心の力」を治療に取り入れている最先端科学の研究者と医療現場、患者を世界中に訪ねて、知的興奮が満載ののノンフィクションに仕上げています。
がん、自己免疫系疾患、過敏性腸症候群、うつ、パーキンソン病、自閉症、慢性疲労症候群などの病気に、心がどのような役割を果たしているかを解き明かす。
彼女の基本的スタンスは、
医療の論争で、片側にいるのは、従来の西洋医学の擁護者たち。反対側にいるのが、それ以外の人たち全員──古代の医療、代替医療、東洋医学の信奉者たちだ。
合理的な世界観を守ることには大賛成だ。私は科学的方法を心から信じている。正しい質問をすれば、自然のあらゆるものは科学的に研究できる、人が頼る治療法は厳格に試験されるべきだ、と私は信じている。
けれども、代替医療をただ排除することが正しい答えだとは思わない。
「代替医療の擁護者たちは、水の記憶や癒しの〈気の場〉といった話に惑わされている」と思いはしても、「懐疑論者たちは完全に正しく理解している」とも思わない。
これはほぼ間違いなく、現代における非常に重要な知的発想のひとつである。効果のある治療法を見極める客観的な方法を得た医師たちは、もう危険な治療法にだまされることはない。
とし、エビデンスやランダム化比較試験の重要性は認めながらも、患者の気持ちを置き去りにしていないかと問う。
しかし、この理論的枠組(ランダム化比較試験によるエビデンス主義)は、痛みやうつ病といった複雑な問題を解決したり、心臓病、糖尿病、認知症などの慢性疾患の増加を食い止めたりすることは得意ではない。その結果、
医者は体の仕組みに目を向けなくなった。測定できる物質的なものに集中するあまり、心が持つ実体のない効果を、二の次にするようになってしまったのだ。
そして懐疑論達が心を無視することによって、患者は代替医療へと向かうことになった。
本書を書き始めた理由は、懐疑論者たちは、従来の医師たちと同じく、体の健康にかかわる、ある重要な要素を見逃しているのではないか、その見逃しのせいで慢性病が増え、知的で分別のある何百万もの人たちが、代替医療の開業医たちのところへ送り込まれているのではないかと感じたからだ。私が話しているのは、もちろん、心のことだ。
従来の科学と医学は、体に対する心の影響を無視したり、軽視したりする。ストレスや不安のような不快な心の状態が長い間に健康を損なうことは、一般的に認められている(数十年前まで、これも激しい議論の的だった)。しかし、その逆のことが起こる可能性、病気を追い払うために心の状態が重要となる可能性、心に「癒やしの力」が宿っている可能性となると、うさんくさいものと見なされる。
精神的ストレスが腫瘍を増大させるのなら、その逆が起きるためには何が必要か。
「心は万能ですべての病を癒す」と断じるのは間違っている。だが、「心が健康に影響を及ぼし、代替医療が多くの症例で効果がある」といった誰でも知っているようなことを否定していては、たとえ挑発するつもりはなくても、科学への信頼を失わせることになる。科学者が「そういった治療法に価値がない」と決めつけては、科学者の理解不足を証明することになるだろう。
標準治療しか認めないような医者にこうした内容を話してもムダでしょうが、がん患者としては心の治癒力を信じたい。
本の内容は、
- 第1章 偽薬──プラセボが効く理由
- 第2章 型破りな考え──効力こそすべて
医師の説明が生物学的変化を起こす - 第3章 パブロフの力──免疫系を手なずける方法
免疫系と脳のつながり - 第4章 疲労との闘い──脳の「調教」
疲労は脳が作り出す感覚 - 第5章 催眠術──消化管をイメージで整える
- 第6章 痛み──バーチャルリアリティと鎮痛剤
- 第7章 患者への話し方──気遣いと治癒
- 第8章 ストレス──格差と脳の配線
ストレスが慢性疾患を引き起こす - 第9章 マインドフルネス瞑想法──うつと慢性疾患
瞑想が新しい脳細胞を作り出す - 第10章 健康長寿──老化と社会的つながり
- 第11章 電気の刺激──神経で病気を治す
迷走神経が免疫系を調整する - 第12章 神を探して──ルルドの奇跡と科学
- おわりに
- 代替医療が心と体に及ぼすもの
- 脳と体への新たなとりくみ
- 医療システムに心を介入させる
- 体と心は切り離せない
遺伝子の活性化など、心の状態が体の物理的構造に与える影響(エピジェネティクス)にも言及しています。