がん患者は、こんな腫瘍内科医を求めているんだよ

クローズアップ現代+「“最先端”がん治療トラブル」に登場した遺伝子治療のいかさまクリニックは酷いものでした。彼らは、先進医療と勘違いさせる術には長けています。免疫療法で転移性乳がんが寛解したというニュースも、さっそくInstagramで都合良く取りあげて、「アクセルブレーキ療法と同じ」と自クリニックの宣伝をしているところがあります。

原因は腫瘍内科医にもある

押川勝太郎先生も「残念ながら、こういう番組でインチキがん治療の存在が知られるようになっても、まだまだ被害者は増える可能性が高い。がん宣告あるいは余命宣告で、パニックになった患者さんには冷静な判断ができないからだ。」と述べている。私もそうだろうと思う。

しかし、患者が冷静な判断ができないことだけが原因ではない。正しい知識を伝えれば解決するという問題ではないのだ。エビデンスが最高の医療だと勘違いしている腫瘍内科医が、がん難民をいかさま免疫療法に追いやっているという側面があるからだ。

以下は、先日の記事『エビデンスがかえって足かせ⁈』に紹介した、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長 佐々木常雄先生のエッセイからです。

Kさんはこれまで2年間、Hがん専門病院で外来通院治療を受けてきました。しかし、今回A腫瘍内科医から、「再発したがんは、抗がん薬で治癒(ちゆ)することはないと、治療開始前に話したはずです。腹腔内のリンパ節は今回のCTでは効いていないようです。治療は中止します」と言われ、緩和ケアの医師を紹介されたそうです。

そして紹介された緩和ケアG医師の診察で、Kさんは、「はっきりとは言われていないが、G医師はどうにかして治療を諦めさせたいと思っているのがありあり」と感じたのだそうです。

「自分はいま治療を諦めることは出来ない。たとえ、効果がなくとも、エビデンス(科学的根拠)がなくとも、医学的に意味があってもなくとも、がんに対してなにか手段がないか、一緒に考えて欲しいのです。G医師とのこのギャップはどうしようもない。もし、痛みがきたらお世話になりたいが、それまでは緩和ケア科を受診したくない」と言われました。

G医師は、「あなたらしく生きることを支える」と言われたそうです。

Kさんは「治療を諦めて、私らしく生きることは考えられない。生きる道を探りたい。生きる希望のために治療法がないかを探りたい。私の話を聞いてわかって欲しい。自分の思いを叶えてくれる医師を探したいと思って来ました」と言われます。

標準治療で効果がなくなった多くのがん患者がKさんのように考えているはずです。それに対して「緩和ケアも治療です」と言われても、心に響くはずはありません。

「残された時間をあなたらしく生きなさい」と言われても、「あんたのような若造から人生の意味を指図されたくはないよ」と反論したくなるでしょう。(言えないだろうけど)

エビデンスなどなくても良い、プラセボ効果で治って何が悪い、1万人に1人の可能性にかけても良い。多くの患者がこのように考える時、エビデンスだの科学的に正しいことを伝えてもムダなんです。

このブログでは、いかさま治療にはきっぱりと反対し、反論しています。しかし、それを選んだ患者さんの自己決定は決して否定することはしません。

がん薬物療法専門医に患者が期待するもの

腫瘍内科医を名乗るには、日本臨床腫瘍学会の「がん薬物療法専門医」の認定を受けることが必要です。この「専門医」に対して患者がイメージするのは、いわゆる〝神の手を持つ医師〟ではなくとも、患者の困難な状況に対して「工夫し、治療法を考えてくれる医師」のことであり、可能な限り「標準治療以外の治療法までも考えてくれる医師」のことです。

しかし、日本臨床腫瘍学会のページには、

『がん薬物療法専門医』とは質の高いがん薬物療法を実現するために、幅広い臓器のがん薬物療法の知識と技術を持った専門医です。それぞれの専門医やメディカルスタッフと連携しながらがん治療を行います。

要するに、標準治療に一定の経験と技術がある医師ということで、それ以上のことは要求されているわけではなく、患者の抱くイメージとはかけ離れています。

「あなたのがんには、A、B、Cの抗がん剤が使えます。どれにしますか?」と、告知直後の患者に決めさせるのがインフォームド・コンセントだと思い込み、「もう使える抗がん剤はありません。あとは緩和ケアを紹介します。早期に緩和ケアに移る方が長生きできるというエビデンスがありますから」と患者との縁を切る。

患者は、日々流れてくる免疫療法のニュースを見ていますから、自分にも使えて効果がある治療法がないのか、ないとしても何かの臨床試験に参加することはできないのか、等々と考え、あげくインターネットで見つけた、最近の医学用語をちりばめたサイトで、わけも分からず罠に捕まってしまうのです。

こんな腫瘍内科医もいる

ふたたび佐々木常雄先生のエッセイを取りあげます。

腫瘍内科医の資格を持たないが、面倒見の良い外科医の治療を受けてきたSさん。マーカーが上昇し、転移巣が少し大きくなってきたので、何か別の治療法はないかと診療情報提供書を書いていただき、腫瘍内科医のいる病院に行きました。

Y病院で対応した腫瘍内科の専門医師は、診療情報提供書とSさんからの話を聞いた後、「これまでしっかり標準治療がされていますよ。いまはSさんに合う新薬はないし、さらに腫瘍が大きくなったら緩和でしょう。よろしければ緩和ケア科を紹介しますよ」との返事でした。
Sさんは「これからも治療を受けたい」こと、「Y病院に通院しても構わない」ことなども話してみましたが、「そろそろ治療を止めて、自分らしく生きることを考えたらどうですか」との答えでした。

どうやら腫瘍内科医のマニュアルには、「緩和ケアを勧めるときには、自分らしく生きることを考えるように説得する」という項目があるのかもしれません。

佐々木医師は、エビデンス至上主義に反対して次のように述べています。

再発がんの治癒は難しいが、転移の状況、身体の状態等それぞれの患者によって違う。抗がん薬だけでがんが消えなくとも、放射線治療、手術などで、希(まれ)かも知れないが、がんが消えた方もおられるのだ。
治癒した患者数はごく少ないことから、統計学上エビデンスとしては出てこない。そのため、標準治療には記載されてこないのだが、がん治療の臨床が長い医師なら経験があるはずだ。
再発がんで抗がん薬が効かなかった場合、決まり切ったように、規定路線のように緩和医師に移され、治療を諦めさせられる。
もちろんいかがわしい治療法は勧めないが、がんの薬物治療後(とくに効果があった場合)、いろいろと工夫して、再度、手術や放射線治療等が適応にならないのかを考えて欲しい。

ガイドラインはエビデンス最優先、それはわかるが、現実の医療はエビデンスだけではない。エビデンスがかえって足かせになっていないか、最後まで闘ってくれる、生きるを支えてくれる医師を望む患者は多いのである。

このブログでは何度も書きますが、「エビデンスがない」は「効果がない」とは違うのです。「効果があるかないか分からない」場合と、「効果はあっても少数例で統計的有意差が証明できない」場合があるのです。エビデンスだけでは現場の医療は回らない。患者の期待にも応えられない。

統計的有意差だけ、P値だけに囚われている医者は「桃(ピーチ)の誘惑」に取りこまれている(^Д^)のでしょうか。

急性心室細動に対する除細動の直接的効果に対するエビデンスはありません。患者をAEDを行う群と行わない群に、ランダムに振り分けることなどできないからです。ですが、経験上では有効だとされて使われています。

「そんな治療法は責任が持てない」とおっしゃいます。「人体実験」だと。

しかし、「もう治療法がない」、このままではいずれ死を待つだけの、他に選択肢がない患者の治療にチャレンジすることは人体実験とは違うでしょ。良いも悪いもない。ただただ、そんな行為を、昔から医療と呼んでいるだけのことです。

患者の立場を理解した賢い医者は、そうしたリスクも覚悟の上でチャレンジするのです。

学会と国が主導して免疫療法の臨床試験を

免疫療法で転移性乳がんが寛解』の例は、米国国立がん研究所(NCI)が支援して行っている臨床試験でした。今世界各国が、がんの免疫療法に公民ともに力を入れています。

一方日本では、遺伝子解析にしても世界の趨勢は全エキソン解析なのに、たかだか数百の遺伝子解析で研究を進めようとしています。この例のように、日本の免疫治療の研究は相当遅れています。中村祐輔先生などは警鐘を鳴らしていますが、政府は財政的にも人的にも研究を進めようというつもりはなさそうです。

安倍政権になってからの、アメリカからの武器購入額は10倍になる見通しです。432億円だったものが、2018年度は約4100億円に上って、さらに防衛関連予算をGDPの1%を2%に増やそうとしています。武器を買う金はふんだんにあるが、がん治療の研究には回す金はないということです。

サイモン・シンらの『代替医療解剖』では、エビデンスの検証プロセスを逆転させることを提案しています。通常の新薬や医療行為の臨床試験は、第一相試験、第二相試験、第三相試験、市販後調査と段階を踏んで研究されます。これに対して、既に普及している代替医療やサプリメント商品などを対象にして、

  1. 有害事象を記録し、中央のデータベースに登録する
  2. どんな病気に効果があるかを臨床試験で調べる
  3. 効果が明らかになったら、その治療法のメカニズムを調べる

と逆のプロセスを経てエビデンスを確立するとしています。

免疫細胞療法、血管内治療、低用量抗がん剤治療など、ある程度普及しているがん治療法に対してもこの考え方を適用して、政府、厚生労働省が予算を組んで、アメリカ並みの臨床試験を行うこと、それを提言することが、がん治療学会や研究者・腫瘍内科医の責務ではないだろうか。腫瘍内科医もエビデンスの解釈屋で終わるのでなく、がん患者のために新しいエビデンスの確立に貢献して欲しいものだ。

免疫療法が大道になることはまちがいないのに、インチキ免疫療法クリニックを攻撃するばかりが能ではないだろう。

がんになった外科医である元ちゃん、西本元一先生のように、免疫療法やがん封じ寺を回るのが、多くのがん患者の姿です。ユーゴーは「レ・ミゼラブル」で、この世は正義だけではない、哀れみや慈しみが大切なんだと描いたが、がん治療においても正しい治療を患者に説くだけでは足りないのです。

エビデンスの一歩先へ。


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がん患者は、こんな腫瘍内科医を求めているんだよ” に対して2件のコメントがあります。

  1. 金魚 より:

    ブログで取り上げた通り、この先生は東北出身で地元でご活躍されておりましたので、以前から存じておりました。
    いつの間にか、駒込にいらしていたのを記事を拝見してからでした。
    駒込は内科が多く(2桁)、特に腫瘍を診療するところにはかつて「モルモットになってくれ」とモルモットの絵が描いたTシャツをプレゼントするDr.がおられ・・・個人的には近づきたくない病院だったのですが、ちょっとイメージ変わりましたね。
    会話がかみ合う先生に診ていただきたいものですが、ある程度情報収集したら後は運もあるし、納得して治療を受けられる先生に出会うのは、本当に難しいなと思います。

    今週は、術後4年でポートを抜くために北に飛びます。地元で抜いても良いのですが、好きな先生に切っていただきたいし、その先生が気づいて下さらなければ、見逃されていた虫垂がん(偽粘液腫)が今頃破裂してダブルキャンサー宣言されていたかもしれないので、お礼方々行ってくるつもりです。

    1. キノシタ より:

      金魚さん。
      「がんサポート」は、いつだったか会員制の有料サイトになってから、チェックをしていませんでした。最近はある程度の記事は読めるのですね。

      佐々木常雄先生の著書『がんを生きる』も以前に興味深く読んだ記憶があります。

      おっしゃるとおり、最後は「医者選びも寿命のうち」なのでしょう。ただ、知識のあるなしは、病院選び医者選びでも、良いくじをひく確率が高くなると思います。地方ではそれも難しいのかなぁ。

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