放射線の半減期とがんの5年生存率
夏休みはチェロ三昧、読書三昧、昼寝三昧です。そうそう、映画も二本。世間のあわただしさをよそ目に、スローライフを満喫しています。
先日、目黒にあるジャズのライブハウスJay-J’s Cafeに行きました。私はジャズといってもMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)程度しか知らないので、この日の演奏者が直居孝雄と増尾好秋だと聞かされてもピンときません。「ギター2台だけでパーカッションもないのか」とちょっと不満な気持ちで店に入りました。増尾好秋は聞くところによると世界的なジャズギタリスト。本人の話ではニューヨークでプロジューサーばかりやっていて、ここ20年くらいはギターを弾いていない。還暦も過ぎたからここらで演奏活動を再開した、とのことでした。同じ団塊の世代、そういえば学生運動の華やかなころ、早稲田のジャズサークルは有名でしたが、そのメンバーでした。増尾さんは自分の譜面をすべて忘れてきたというのですが、演奏はさすがにテクニックがありました。好きな道をただ一筋、うらやましい生き方です。
私の術後3周年を記念して誘っていただいたもので、その彼は1年半前に肺がんを手術した、いわば癌友です。したがって話題は当然癌の話。彼はCTでは異常がないものの腫瘍マーカーCEAがずっと上昇傾向で、もちろん基準値を超えていると言います。
彼「抗がん剤をやっても下がらない。別のに変えたが、あまり効果がない。私の場合、抗がん剤の副作用がほとんどないんだよね。ということは抗がん剤が効いていない可能性がある。」とタバコをすぱすぱやりながら言います。
彼「ま、肺がんの5年生存率が50%だから、5年後には五分五分かと思ったら、仕事の心配したり、悩んだりはばかばかしくなってね」
5年生存率50%程度でそんなに悟ったことを言われたら、5%~15%の膵臓がん患者としてはここで無言でいるわけにはまいりません。
私「5年生存率50%というのは、ちょうど生存期間中央値が5年ということでしょう。膵臓がんで手術不能の場合、生存期間中央値は3ヶ月です。生存期間中央値というのは、半数の患者が死亡するまでの期間ですから、放射性同位元素の半減期と同じです。半減期はもともとあった元素の数が半分になるまでの時間ですから。ちなみに膵臓がんで私のように手術適用の場合でも生存期間中央値は6ヶ月ですよ。」
※正確には、術後補助化学療法としてGEMを投与しなかった場合のMSTが6.9ヶ月。近年ほとんどの患者がGEMを投与されているので、その場合13.4ヶ月となる。一方手術不適用のデータ「3ヶ月」というのは日本膵臓学会の全stage非切除例データでGEMを投与しなかった場合の古いデータである。
彼「そういうことになるねぇ。」
私「コバルト-60の半減期が5.27年ですね。そしてイリジウム-192の半減期が74日。どちらもがん治療に使われる放射性同位元素であるのは偶然ですが、コバルト-60は肺がんのステージⅡB期の生存期間中央値と同じ、イリジウム-192はすい臓がんに近い。これも偶然でしょうか」
彼「そうするとあなたは半減期の6倍生きてるわけか。私が半減期の6倍生きるには5年×6=30年!!。90歳になる。がんを克服しても別の原因で死んでるなぁ。」
二人とも永年放射線の管理に従事してきた間柄ですから、この意味は即座に伝わります。ただ違うのは、放射性同位元素の減衰は限りなくゼロになるまで続きますが、がん患者の生存曲線はゼロに漸近するとは限らないということ。そして、原子核の崩壊は量子力学的な確率現象であるが、がん患者が生き残るかどうかは、ある程度は患者の努力によって影響を与えることも可能であるということです。彼の5年目には私が招待する約束になったのですが、それまでコバルト-60もイリジウム-192も”崩壊”しないでいられるかどうか、神のみぞ知るです。
肺がんのステージ毎生存率曲線
放射性同位元素の減衰曲線
コメントにもあるように、生存期間中央値に関するデータが引用が不適切であるが、ここでは「半減期」と「生存期間中央値」の相似性を話題としたものであるので、当時の話題の進展のままにしておく。正確には過去のブログ記事を参照願います。
キノシタ様
わざわざ記事の修正(訂正)を行っていただく仕儀になり、大変恐縮しています。
ショックというのうは言い過ぎた表現で、単純にやはりこの病気は厳しいなぁ、という感懐を
ショックという言葉で気安く書いたまでのことでした。
私の場合は、病名診断から1年5ヶ月弱、手術(PPPD)からは1年3ヶ月余りが無事に
経過しました。ありがたいことだと思っています。
まだまだpoint of survivalまでの道のりは長いのですが、このブログは、気分が落ち込むたびに
訪れては力をもらっています。
その一つ:
キノシタさんのブログを見て注文したPE社のメラトニンも本日アメリカから届き、早速今晩から
(取り敢えずは3mg)飲んでみることにします。
いつか同病の方への力となるような(自分の)ブログが書けるように前向きに、かつ自然体で
頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。
陶さん。
私の書き方がいい加減でショックを与えたようです。
2008/8/2のブログで紹介したように、ASCOのCONKO-001臨床試験結果によれば、術後補助化学療法でジェムザールを投与した患者と投与しない患者を比較したとき、対照群(投与なし)では生存期間中央値は6.9ヶ月、GEMを投与した場合は13.4ヶ月です。「半年」というのは対照群のほうです。陶さんはGEMを投与したはずですね。一方で手術不適用の患者データは、日本膵臓学会の非切除型全stageで、GEMが導入される前のデータでした。
陶さんの書かれたデータが現状では正しいデータであると思います。
記事は修正します。
ホメオパシー(レメディ)については朝日新聞が二度に亘って社会面トップ扱いでキャンペーンをはっているような
印象ですね。ホメオパシー医学協会のほうが槍玉にあがってますが、O津医師のほうはホメオパシー医学会という
名称なんですね。(協があるかないかの違い!)
実は、私もO医師からレメディーを処方されて数ヶ月舐めてました。(笑)
6日間舐めて1日休み、さらに6日間舐めるというのが1クールです。ちなみに自主的にホメオパシーを止めて半年
以上になります。
ホメオパシーが記事として取り上げられた日の朝日新聞に、奇しくも、個人情報保護の壁が立ちはだかって
がんの5年生存率の調査が難しくなってきているという記事が出ていましたね。
ただ、私はかねてから、5年生存率って個人情報保護法の壁云々以前に、調査が難しいし、かなり当てにならないのでは
思っております。3年位無事に経過すれば病院にも行かなくなる人もいるでしょうし、5年も間には担当医も転出したり
退職したりということもあるでしょうし。
今話題の所在不明の100歳以上の老人の例を持ち出すまでもなく、4年を超えての追跡調査は難しいのではなかろうかと
思う次第です。
さて、今日のブログ記事にありました、
>膵臓がんで手術不能の場合、生存期間中央値は3ヶ月です。
>ちなみに膵臓がんで私のように手術適用の場合でも生存期間中央値は6ヶ月ですよ。
ですが、私の理解では
前者の場合で6ヶ月、後者の場合は1年10ヶ月くらいだと思ってましたのでショックでした。
(その根拠は手術適用の場合、1年生存率80%、2年生存率50%だと聞いていたものですから。)
いつの日か、自分の患者体験をブログにして還元できるときが来ることを願っています。