アバスチンの乳癌への承認取り消し

米国食品医薬品局(FDA)がアバスチン(ベバシズマブ)の添付文書から乳癌適応を取り下げるよう推奨した、というニュースが流れています。アバスチンは、FDAの迅速承認制度により2008年2月にパクリタキセルとの併用で転移性乳がんへの適用が承認されました。しかし、迅速承認後の追加試験において、「アバスチン投与を受けた患者の延命効果は認められておらず、またそのような患者において重篤な副作用の頻度が有意に高かった」という結果が出て、FDAは承認をとり下げるように勧告したが、ジェネンテック社は自主的に取り下げることに同意していません。

今年6月に開催されたASCO 2010において、2つのフェーズⅢ試験でアバスチンは全生存期間を延長できない、と発表されていたのですが、今回のFDAの発表によってアバスチンの評価は決定的になりました。

「薬」かと思って投与していたら「毒」だった、というわけです。もっとも、承認時にもOSに有意な延長がなかったために賛否両論あったようで、"Genentech wins; patients lose,"などと強烈に皮肉られていたようです。

アバスチンはドラッグ・ラグとして代表的な抗がん剤です。日本の多くの乳がん患者会が「一日も早いアバスチンの承認を」と活動してきました。そして中外製薬は昨年10月に乳癌への追加承認を決定し、アバスチンの乳癌への適用は時間の問題だと思われていたところに、今回の一連のFDAの決定です。日本の承認への影響は必至でしょう。

ドラッグ・ラグ解消を唱えるあまり、国内の臨床試験を省略すべしという意見がありますが、今回のアバスチンの例をみれば、抗がん剤の承認には慎重な臨床試験と審査は欠かせません。効果の有無よりもまず安全を確認することが重要です。国内未承認の抗がん剤を一刻も早く使いたいという患者の気持ちは理解できますが、だからといって国内の審査は不要だ、省略できるということにはならない。過去の数々の薬害事件を忘れてはならないと思うのです。

また、抗体医薬品、分子標的薬だから副作用がない、画期的な抗がん剤だ、オーダーメイド医療だとかの意見は、まだ眉唾で聞いていた方がよい、危なっかしいということも明らかになりました。アバスチンは血管新生阻害剤としては世界で始めて承認された抗がん剤です。分子標的薬や抗体医薬がもてはやされて、さも画期的な抗がん剤であるかのように宣伝されていますが、がんも人間の身体も、そんなに単純なものではないと思い知らされました。アバスチンなどの腫瘍血管新生阻害剤には、がんの転移を促す作用があるのかもしれないという研究もあったのです。

世界で2番目の腫瘍血管新生阻害剤となるかもしれないと言われているOTS102、がんペプチドワクチンですが、果たしてもくろみ通りの血管新生阻害効果があるのかどうか、注目しています。

ドラッグ・ラグの対象とされている、これらの新しい抗がん剤は、承認されてもその薬価が高いことが問題です。なかには、イブリツモバブのように一回の薬剤費が470万円にもなるものがあります。患者負担は3割で高額療養費制度があるとは言え、月に8万円、上位所得者では15万円もの医療費負担を長期に続けることは、がん患者にとって容易なことではないはずです。そして、抗がん剤の投与を止めて「静かな自殺」を選ぶ患者がいるのです。

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膵臓がんに適用できる抗がん剤として、来春にはタルセバ(エルロチニブ)が承認されるとの噂があります。ゲムシタビンとTS-1の2剤しかない現状に新しい選択肢が増えると期待されていますが、タルセバは、GEMに比べて生存期間中央値がわずか10日延びるだけで承認されるのです。しかも1錠が1万円強します。がん治療費.comによれば、ゲムシタビンとタルセバを併用したときの医療費は322,130円になるそうです。10日の延命効果を大きいと考えるか小さいと考えるか、その患者それぞれの価値観や症状にもよるのでしょうが、副作用はちゃんと付いてきます。諸手をあげて喜ぶべきかどうか、疑問に感じるのは私だけでしょうか。

私は再発しても、タルセバは服用しないなぁ、たぶん。

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やみくもな「ドラッグ・ラグ解消論」は、問題をより深刻にする怖れすらあります。経済的に裕福な患者しか利用できないことにもなりかねない。ましてや、混合診療を解禁して未承認の抗がん剤を自由に(金のある患者だけの自由ですが)使おうというのは、非常に危ない対応ではないかと思います。


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アバスチンの乳癌への承認取り消し” に対して1件のコメントがあります。

  1. ひょうご より:

    Pancanのクリスマス・イベントとして杏林大学の古瀬先生という方を招いての公演が有るようですが、その説明の中に「膵臓がん領域の抗がん剤の開発にも拍車がかかってきた 」と有ります。。。有益な情報が得られるのではと内容に期待していたのですが、ここでキノシタさんがお書きになっている「タルセバ」の事などを指しているのであれば、少しガッカリです。。今回は出席できないのですが、また後日にでも内容確認してみたいと考えています。

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