『デタラメ健康科学』代替療法・製薬産業・メディアのウソ

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デタラメ健康科学---代替療法・製薬産業・メディアのウソ
私たちはなぜ騙されるのか、『デタラメ健康科学—代替療法・製薬産業・メディアのウソ』でサプリメント業界と製薬産業の手口は同じだとベン・ゴールドエイカーは言う。著者はイギリスの著名な医師であり、著述家。ガーディアン紙に連載されて大きな反響をよんだコラム「バッド・サイエンス」をまとめたものである。舌鋒鋭くかつ英国人らしい皮肉とウィットに富んだ内容で、難しい内容もすらすらと一晩で読んでしまった。

サイモン・シンの『代替医療のトリック』と同じように、ホメオパシーに多くを割いているが、それはホメオパシーが「科学的根拠に基づいた医療」とは何かを考える上で「反面教師」になるからである。ホメオパシーを題材にして、効果を確かめるための科学的方法を具体的に説明してくれる。先入観を取り除くための「盲検化」、対象をランダムに振り分ける「無作為化」の必要性を強調する。多くの研究結果を集めて分析する「メタ分析」まで読めば、ホメオパスの誘いに対しても有効に反論できるようになるだろう。そして「心が身体におよぼす影響はじつは思っている以上に大きい」と、プラシーボ効果の「上手な利用法」を説明してくれる。

「抗酸化物質は本当に身体に良いのか」で栄養評論家をこき下ろし、オメガ3脂肪酸を多く含む「魚油」のサプリメントで子供の知能指数が向上するという教育委員会のばかげた臨床試験を断罪する。そのついでに製薬産業が「今ある病気に"新しい治療薬"を見つけることができないので、すでにある治療薬で対処できる"新しい病気"をつくりだした」例として「社会不安障害」や「女性性機能障害」「夜食症候群」を挙げる。FDA(アメリカ食品医薬品局)と製薬産業の人事交流が頻繁にあることにも触れ「これではいかさまのやり放題だ」と釘を刺す。日本のメディアや医療界も、FDAのお墨付きを無条件で信用する習慣があるが、これではサプリメント業界を笑うことはできないだろう。『ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実』にはFDAと製薬企業の癒着ぶりが克明に紹介されている。

こうしたサプリメントの宣伝と普及には、科学的知識とは何かが理解できないマスメディアが大きな役割を果たしているのだという。納豆騒動の例を見るまでもなく日本でも同じだ。

医療の世界で「科学的根拠に基づいた医療」はどのくらいの割合かとの疑問に、著者は「全治療法の13%に十分な根拠があり、21%に効果が期待できる」と驚くような数字を挙げる。別の分析方法によれば「全治療活動の50~80%に根拠があると分かった」と言うが、それにしても高い数値とは言いがたい。今現在「標準治療」だといわれていても、根拠に乏しいものが半分だし、明日にはこの治療法はまちがっていたとして別の治療法が推奨されることになりかねない。これまでもそんな例はたくさんある。

私たちが「根拠に基づく医薬品を提供しているはず」と思い込んでいる製薬産業にも手厳しい。盲検試験の条件を満たした臨床試験でもさまざまな手口で製薬企業に都合のよいデータをねつ造する方法を紹介している。

  • 当初の計画になかったたくさんの項目を測定する–偶然に効果があるというデータが出ることがある
  • 基準値を操作する–プラセボ群と治療群の健康状態の差を操作する
  • 脱落者を負わない–打ち切り例がたくさんでる
  • 異常値をカットする–都合の悪いデータは棄却検定にかけてアリバイを作っておく
  • 都合の悪い研究結果は公表しない–公表バイアス

いくつかは近藤誠氏が本で書かれていることと一致している。タルセバの承認時にも都合の悪い試験のグラフは載せなかった。

なぜ人が騙されるのか? バカなことを信じるのか。それには次のような傾向が関わっている。

  1. 規則性のないところに規則性を見出す
  2. 何もないところに因果関係を見出す–平均への回帰
  3. 仮説に合う情報を重視する
  4. 都合の悪い情報は無視するか軽視する

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する
まだあるが、興味があれば『たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する』と合わせて読んでみれば、より理解が深まると思う。4などは、今回の福島原発事故に際しての東電・保安院のことを言っているのかと思うほどだ。素直に放出された核種を見れば初期の段階でメルトダウンが起きていることは明白だったのである。

ただ、代替療法については、根拠が明らかでないからだと批判するが、『代替医療のトリック』のように頭ごなしに否定しているわけではない。

代替療法を頼ったせいで、落とさなくていい命を落とした人は確かにいる。しかし、代替療法を選ぶ人はすべてを分かったうえで、少なくとも薄々承知したうえで選んでいるように思うのだ(ただし栄養療法は別。いかにも科学的根拠に基づいている風を装って世間を意図的に惑わせているから)。これは病人の弱みにつけ込んだ商売というのとは違い、実際はもう少し複雑な気がする。私たちはこういうものが好きなのだ。代替療法には私たちを惹きつける何かがある。これについてはもっと時間をかけて議論する価値がありそうだ。

ターメリックは身体にまったく吸収されないから効果がないと書かれているが、『がんに効く生活』では「黒胡椒といっしょに摂らないと吸収されない」と説明がある。インドの住民は、黒胡椒と摂ることでターメリックが効果的に吸収されることを、経験的に知っていた。

日本ではがん患者の「弱みにつけ込んだ」代替療法が盛況だし、弱みにつけ込んだ代替療法業者・医者が多いのだが、健康問題の全体にならこう言えるのかもしれない。著者はイギリス国民保健サービス(NHS:利用者の健康リスクや経済的な支払い能力にかかわらず利用が可能であり、完全に無料である)の常勤医師でもある。わが国の厚生労働省の医療技官やがん研究センターの医者には、こんな本は絶対に書くことはできない。本の帯には、批判された側のメディアがこの本を絶賛していると書かれているが、イギリスの民主主義の成熟度と日本のマスコミのていたらくを、つい比較してしまう。


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