今日の一冊(88)『なぜ関空に世界中からがん患者が集まるのか?』

日本に動脈塞栓術を広めようとしている、IGTクリニック院長の堀信一先生の著作です。動脈塞栓術は「血管内治療(カテーテル治療)」とも言われますが、非常に細いマイクルカテーテルを血管内を通して腫瘍に抗がん剤を直接送り込みます。同時にがん組織が栄養を受け取るために作った血管を塞栓材料(ヘパスフィア)で蓋をしてしまおうという治療法です。

治療法の解説、開発までの苦労話やいくつかの成功例が紹介されています。

ただ、膵臓がんに関しては、他のがんほどの効果はないことが分かっています。

出版までの経緯―山下弘子さんとの関わり

この本の出版がAmazonで予告されたのは昨年の5月頃だったでしょうか。それがいつまで経っても購入できるようにならずにイライラしていました。先日思い出してやっと購入した次第です。

この本の出版には、先月亡くなられた『雨上がりに咲く向日葵のように』の山下弘子さんが深く関わっていると、あとがきに書かれています。

山下弘子さんのブログ『今を生きる』から引用すると、

血液検査をし、CTを撮ってみて、なんと、一ヶ月前のCT画像にはなかったのに、今回の画像で右気管支の中に腫瘍が見つかったのです。
気管支をもう既に大部分埋まっていて、進行スピードも速いので、このまま行くと気管支が閉塞してしまい、無気肺になるっと言われてしまいました。
すぐにでも気管支の中にある腫瘍を取り除かなくてはなりません。
と、いうことは、臨床治験をやめなくてはならないことになりました。

そして、たくさんの人の協力の結果

「諦めなければ、必ず方法は見つかる」
という言葉は、きっと誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。
それを、私はまた体験することになりました。
諦めずに、ずっと探し続けていた結果、頑張った結果…
きっと今の時点の私にとって最善で最高の方法が見つかったのです!
一時はどうなるのかと思いましたが、
無事に病院も、医師も、治療法も見つかったのです!!!

それがIGTクリニックの動脈塞栓術だったのです。

それが2016年4月のことでした。肺への転移のために止まらなかった咳も良くなって、元気に退院した彼女は「一人でも多くの患者に動脈塞栓術を知ってもらいたい」と、堀院長を説得して宝島社を紹介し、出版にこぎ着けたのでした。

膵臓がんへの適用は?

治療法の内容や効果は本書やIGTクリニックのWebサイトに譲ることにして、膵臓がんに関する箇所だけを抜粋しておきます。

膵臓がんに対しては、他のがんほど効果がないことがわかっています。

膵臓がんは、膵臓の組織に塞栓物質が流れると、膵炎を起こしてしまうことがあり、治療が思うようにできないことが多いのです。

また、膵臓がんの九割は浸潤性といって、まるでアメーバーのような形で、膵臓の周囲に広がっていくことが多いのです。広範囲になるとがんに栄養を運ぶ血管が多くなるため、その血管を塞栓する動脈塞栓術が得意とする腫瘍ではないのです。

そしてもうひとつ、動脈塞栓術の効果が出にくいのが、大腸がんが肝臓に転移したものです。

ただ、効果は薄くても、まったく効かないわけではなく、大きくならない期間を延ばすことはできるのです。

動脈塞栓術は、もともとは日本発の技術です。30年ほど前に大阪市立大学の山田龍作先生が、肝臓がんに栄養を送る血管をふさぐ治療法として確立したものです。

したがって、膵臓がんが肝臓に転移した場合の治療法として、やられることがあります。あくまでも延命治療です。

動脈塞栓術は健康保険が適用されます。

動脈塞栓術の欠点

全国には、堀先生の元で訓練をして動脈塞栓術をおこなっている施設は多数ありますが(ニャンコ先生もそのひとり)、堀先生が言われるように、動脈塞栓術は医師の技量が大きく作用する治療法で、それが普及を妨げている原因であり、欠点でしょう。また、CTと血管造影装置を備えた設備が必要であり、腫瘍近辺の血管を3D画像で把握しておく必要があるなど、近代的な設備も必要です。

もう一つの血管内治療

動脈塞栓術は、腫瘍に直接抗がん剤を投与し、動脈血管に蓋をする方法ですが、同じ血管内治療(カテーテル治療)でも、腫瘍そのものではなく、腫瘍に栄養を送っている血管だけをターゲットにする治療法もあります。

がんは自らの栄養を補給するために、新しい血管を作り、動脈から栄養を横取りしますが、この新生血管は急ごしらえなので、画像で見てももやもやとしています。カテーテルでこの新生血管に近づいて、血管を消す薬(ジェムザールと甘草の主成分であるグリチルリチンの混合物など)を投与すると、腫瘍血管だけが消失し、腫瘍に栄養分が行かなくなり(兵糧攻め)、腫瘍が弱ってきます。免疫チェックポイント阻害薬を併用することで、動脈塞栓術では苦手な膵臓がんや胆管がんにも効果が期待できるといわれています。

奥野哲治医師のクリニカE.T.が日本で唯一この治療を行っていますが、自費診療となり、1回の費用が約50万円、場合によっては数回の治療をする必要があります。

全癌腫での奏功率は29.5%、免疫チェックポイント阻害薬を使った場合は、84%がステージ4の患者でしたが、奏功率は23.4%となっています。この治療法の特徴は、効果が出るまでに数ヵ月を要することがあり、しかも効果が持続することです。


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今日の一冊(88)『なぜ関空に世界中からがん患者が集まるのか?』” に対して2件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    金魚さん。現場の経験者のコメントはハリがありますね。
    膵癌でもこれにチャレンジした方が何人かいますが、効果は期待したほどではないようです。ま、期待が大きすぎるのかもしれませんが。
    標準ではないことの第一原因は、「われわれが治療を優先するあまり、学会でも発表をしてこなかったからだ」と堀先生が書いています。
    標準治療で打つ手がなくなれば、山下弘子さんのように、使えるものは何でも使うことで良いと思うのですが、これも「エビデンスがない」と反対されますね。

  2. 金魚 より:

    こんにちは、動脈塞栓術、術者次第ですよね・・
    がん以外で、子宮筋腫が有名です(良性腫瘍のくくりになりますけど)。
    婦人科の先生の中には、結構野蛮な方もいて・・筋腫?もう子宮要らないでしょ?という暴言とともに、全摘されることがほとんどでした。
    それを子宮を残せる動脈塞栓術で治療する放射線科の先生達と、かなりの攻防が過去にはありましたね。
    今は、術後の出血を減らせるなどの理由で、仲良く協力して治療することも増えています。
    その治療に関わっていた時期があったので、血管の走行により腫瘍への効果が全く違うことは良く知っています。堀先生は、過去に視神経のトラブルを経験しているので、慎重に塞栓するタイプのようです。
    にゃんこ先生は存じ上げませんが、堀先生とのトラブルを匂わせるお話が多く、ちょっとそこが気になってしまいます。
    しかし、実はIGT以外の施設でも、そっと塞栓術をしている施設はあったりしますね・・ガンセンター中央病院も院長が塞栓術が得意な先生だった時代もありました。
    ただ、標準ではないので積極的にオープンにはしない・・ということで。
    子宮筋腫のように、全てのがん患者が標準外の治療選択肢として、どこでも受けられる治療になって欲しいと思います。

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