「膵臓がん患者と家族の集い」のご案内


【日 時】2025年11月29日(土) 13:15~16:00(開場:13:00)
【会 場】大田区立消費者生活センター 2階大集会室
【参加費】1,000円
【対 象】膵臓がん患者とその家族、ご遺族
【定 員】60名
【内 容】第1部:「温熱療法の最前線ー理事長が語るハイパーサーミアの治療効果」
         古倉 聴 京都先端科学大学教授 (社)日本ハイパーサーミア学会理事長
     第2部:患者・家族、ご遺族の交流会

申込締切は11月25日(火)19:00までです。
詳しくはオフィシャルサイトで


【祝!ノーベル賞】坂口志文先生の発見「制御性T細胞」とは?がん治療、そして難治の膵臓がん治療の新たな光

2025年、医学界に大きな喜びのニュースが舞い込みました。大阪大学の坂口志文(さかぐち しもん)特任教授が、ノーベル医学生理学賞を受賞したのです。その輝かしい功績の中心にあるのが、「制御性T細胞(Treg)」の発見です。この発見は、単に免疫学の教科書に新たな1ページを加えただけでなく、がん治療、とりわけこれまで有効な手が少なかった難治がんとの闘いに、革命的な光を灯そうとしています。

私たちの体を守る免疫システム。その中で、時に過剰な攻撃を抑える「ブレーキ役」を担うのが制御性T細胞(Treg)です。しかし、この「守護者」が、がん細胞にとっては最大の「味方」になってしまうという皮肉な現実があります。この記事では、坂口先生の偉大な発見である制御性T細胞(Treg)の正体から、それがなぜがん治療の鍵となるのか、そして難治がんの代表格である膵臓がん治療への新たな希望まで、詳しく解説していきます。

免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか (ブルーバックス)

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坂口志文, 塚﨑朝子
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著作の第6章が「制御性T細胞でがんに挑む」となっており、詳細に説明されています。

免疫の「守護者」であり「ブレーキ」でもある制御性T細胞(Treg)とは?

私たちの体には、細菌やウイルスといった外部からの侵入者(非自己)や、体内で発生した異常な細胞を排除するための精巧な防御システム、「免疫」が備わっています。その主役を担うのが「T細胞」をはじめとする免疫細胞です。彼らは体内のパトロール隊として、常に敵を探し、攻撃を仕掛けています。

しかし、この強力な攻撃力は諸刃の剣です。もし免疫システムに「ブレーキ」がなければ、その矛先が自分自身の正常な細胞(自己)に向かい、自らを攻撃してしまう「自己免疫疾患」を引き起こします。関節リウマチや1型糖尿病などがその代表例です。私たちの体が健康を維持するためには、アクセル役の免疫細胞だけでなく、それを適切に制御するブレーキ役が不可欠なのです。

長年、このブレーキ役を担う細胞の正体は謎に包まれていました。その存在を突き止め、世界で初めて証明したのが坂口先生です。先生は、T細胞の中に、他の免疫細胞の働きを抑え込む特殊な細胞群が存在することを発見し、それを「制御性T細胞(Regulatory T cell; Treg)」と名付けました。

Tregは、免疫の「暴走」を食い止める、まさに生命維持に不可欠な「守護者」です。この発見により、自己免疫疾患の原因解明や治療法開発が大きく進んだだけでなく、後述するように、がんや臓器移植、アレルギーといった幅広い疾患の治療に新たな道が拓かれたのです。

がん治療におけるTregの「厄介な」側面

免疫システムは、外部の病原体だけでなく、体内で発生するがん細胞も監視し、排除する働きを持っています。これは「がん免疫監視機構」と呼ばれ、がんの発症を防ぐ重要な仕組みです。しかし、多くの場合、がんはこの監視網を巧みにくぐり抜けて増殖していきます。その最大の「協力者」こそが、Tregなのです。

この問題を理解する鍵は、がん細胞の成り立ちにあります。がん細胞は、ウイルスや細菌のような完全な「非自己」ではなく、元をたどれば自分自身の正常な細胞が遺伝子変異を起こしたものです。そのため、免疫学的には「自己」と「非自己」の中間に位置する、「自己もどき」の細胞と言えます。

ここでTregの本来の役割を思い出してみましょう。Tregの使命は「自己」に対する免疫応答を抑制することです。この働きが、皮肉にも「自己もどき」であるがん細胞を守る方向に作用してしまうのです。がんを攻撃しようとするT細胞(キラーT細胞)がいても、現場に駆け付けたTregが「待った」をかけ、その攻撃にブレーキをかけてしまいます。結果として、がん細胞は免疫の攻撃から守られ、定着し、成長することが可能になります。

実際に多くのがん患者の体内では、この現象が起きています。がん組織を詳しく調べると、がん細胞の周囲に大量のTregが浸潤していることが分かっており、その割合は血液中のT細胞の30~40%、場合によっては80%近くを占めることもあると言います。そして、乳がん、胃がん、卵巣がんなど多くの固形がんにおいて、腫瘍内に浸潤しているTregの割合が高いほど、患者の予後が悪いという相関関係も報告されているのです。

制御性T細胞(Treg)を標的にした新しいがん免疫療法

がん細胞がTregを「盾」にして免疫から逃れているのなら、その盾を無力化すれば、がんを治療できるのではないか――。この逆転の発想が、がん免疫療法の新たな潮流を生み出しました。Tregをいかにしてコントロールするかが、治療成功の鍵となります。

戦略1:免疫チェックポイント阻害薬

近年のがん治療を大きく変えた「免疫チェックポイント阻害薬」も、Tregと深く関わっています。私たちの免疫細胞の表面には、免疫応答にブレーキをかけるための「免疫チェックポイント分子」と呼ばれるスイッチが存在します。その代表が「CTLA-4」や「PD-1」です。

特にCTLA-4は、活性化したT細胞だけでなく、Tregの表面に恒常的に発現している分子です。抗CTLA-4抗体(イピリムマブなど)は、このCTLA-4の働きをブロックします。その作用メカニズムの一つとして、Tregの表面にあるCTLA-4に結合し、Tregの抑制機能を低下させたり、腫瘍局所でTregそのものを減少させたりすることが考えられています。これにより免疫全体のブレーキが外れ、キラーT細胞ががん細胞を攻撃しやすくなるのです。

戦略2:Tregを直接除去・無力化する

より直接的にTregを狙い撃ちする戦略も開発されています。Tregと一口に言っても、その中にはいくつかの種類(亜集団)があります。研究が進むにつれて、がん組織に浸潤し、特に強い免疫抑制能を持つのは「エフェクター型Treg」と呼ばれる活性化したTregであることが分かってきました。

このエフェクター型Tregの表面に特異的に多く発現しているのが、「CCR4」というタンパク質です。そこに目を付けたのが、日本で開発された「抗CCR4抗体(モガムリズマブ)」という薬剤です。この薬は、CCR4を目印にしてエフェクター型Tregに結合し、これを選択的に体内から除去する働きを持ちます。体内にいる他のTregへの影響を最小限に抑えつつ、がんの局所で最も厄介なブレーキ役だけを排除できるため、自己免疫疾患のような副作用のリスクを抑えながら、抗腫瘍効果を高めることが期待されています 18

難治がん「膵臓がん」治療への応用と期待

Tregを標的とする治療法は、これまで治療が極めて困難とされてきた「難治がん」にこそ、大きな希望をもたらす可能性があります。その代表が膵臓がんです。

膵臓がんは早期発見が難しく、診断された時点では手術ができないほど進行しているケースが多いのが現状です。また、抗がん剤や放射線治療も効きにくい、非常に手ごわい相手です。近年発展が著しい免疫チェックポイント阻害薬も、単独では十分な効果を示せていません。

その理由の一つは、膵臓がんが持つ特有の「免疫抑制的な腫瘍微小環境」にあります。膵臓がんの組織は、硬い線維組織(間質)に覆われており、がんを攻撃するキラーT細胞が内部に侵入しにくい構造をしています。さらに、がんの周囲にはTregをはじめとする免疫を抑制する細胞が大量に集結し、がん細胞を守るための強力なバリアを形成しているのです。

まさに、Treg制御が突破口となり得る状況です。抗CCR4抗体などで腫瘍局所のTregを排除することができれば、この強力な免疫抑制環境を打破し、キラーT細胞が活動しやすい状況を作り出せるかもしれません。そうなれば、これまで効果が限定的だった免疫チェックポイント阻害薬や、がん抗原を標的とする「がんワクチン」の効果を劇的に高められる可能性があります。

がん治療の未来を拓く坂口先生の発見

坂口志文先生による制御性T細胞(Treg)の発見は、免疫システムには攻撃(アクセル)だけでなく、抑制(ブレーキ)という精緻な制御機構が存在することを明らかにした、生命科学における金字塔です。そして今、その基礎研究の成果が、がん治療の最前線に大きな変革をもたらそうとしています。

がんとの闘いは、新たな時代を迎えました。それは、単に免疫を活性化させるだけでなく、「Tregを枯渇させる」「ワクチンで効果的に抗原を提示する」「T細胞を活性化させる」といった作用点の異なる治療法を、科学的根拠に基づいて巧みに組み合わせる、より戦略的なアプローチです。

最初にTregというブレーキを外し、その上でキラーT細胞というアクセルを最大限に踏み込む。この戦略が確立されれば、膵臓がんをはじめとする難治がんに苦しむ多くの患者さんにとって、これまでにない希望の光となるはずです。坂口先生のノーベル賞受賞は、その輝かしい未来の到来を、私たちに力強く示してくれています。

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